競争激化するファストファッション業界 苦戦するギャップ、攻勢続くファーストリテイリング

スウェーデンの「H&M」や米「フォーエバー21」など外資系のアパレル企業が旋風を巻き起こした09年の国内アパレル業界。10年に入り、その熱も一旦は収まりつつあるように見える。ただ、日本だけではなく米国やアジア、新興国においてもグローバルな戦いは水面下で進んでいる。
 各国企業がグローバル展開を図る中で、今回は近代アパレルの先駆けとも言える日本最大手アパレルのユニクロを展開するファーストリテイリング<9983.T>と米衣料品小売最大のギャップ<GPS>を比較対象とし、両社の今後、投資対象としての価値を探った。

SPA

両社はSPA業態という点で共通する。SPAとは独自ブランドを持つ衣料品販売業のことで、自社工場を持つことから製造コストを大幅にカットできるのが特徴。強みともいえる低価格や高品質の商品を生み出す源泉となっているビジネスモデルだ。このビジネスモデルを生み出したのが、ギャップ。そして、そのギャップを目指し日本で事業を立ち上げたのがファストリテといわれている。両社はまだ競合が少ない時代に他社に先駆けて自国を飛び出し、労働コストの低い地域に製造工場を作ったことが成功の鍵となった。

海外ブランドに攻め込まれる日本、米国

ただ近年、SPAというビジネスモデルだけではアパレル市場で勝つことは難しくなっている。それを象徴しているのが、ブランドを確立したかに見えたギャップの失墜だ。米モーニングスターはこの理由を「他の専門小売業者や大手流通業者にとって、特別な技術や構造的な優位性がなかったアパレル業界に参入する障壁は低かった。また、時代の変遷とともに10代の若者やファッションに気を使う層に受け入れてもらえなかった。結果、ギャップは05年度から09年度まで減収を被った」と指摘。さらに、米国では最近のトレンドから、チェーン展開を加速させる「ZARA、H&M、フォーエバー21に近い将来、シェアを脅かされることは間違いない」(米モーニングスター)と厳しい予想をしている。

【表1 ユニクロの国内既存店売上とギャップの既存店売上高の比較】(いずれも前年同月比)
2010年 1月 2月 3月 4月 5月              
ユニクロ 92.8 101.8 83.6 87.6 103.1
ギャップ 102.0 100.0 111.0 94.0 98.0
2009年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
ユニクロ 105.7 104.2 107.9 119.2 118.3 106.4 95.8 105.6 131.6 135.7 107.9 111.5
ギャップ 82.0 88.0 86.0 90.0 89.0 90.0 91.0 93.0 92.0 94.0 96.0 101.0
2008年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
ユニクロ 99.1 101.4 108.1 97.2 107.9 100.7 111.9 104.2 120.8 97.5 132.2 110.3
ギャップ 96.0 97.0 86.0 100.0 93.0 95.0 94.0 95.0 97.0 86.0 89.0 88.0
(ファーストリテイリングとギャップの会社資料を基にモーニングスター作成)

一方、ユニクロの状況はどうか?H&Mやフォーエバー21の日本上陸で、09年は外資系アパレルが旋風を巻き起こしたものの、日本の状況は米国とは多少異なる。ユニクロの既存店の売上高は08年後半以降、前年を大幅に上回る状況が続いており、ギャップの北米既存店売上高の推移と比べて大きな違いがある(表1)。これは、ユニクロが「ヒートテック」や「ブラトップ」など「特別な技術」を使った付加価値製品を開発することが出来たことなどが奏功している。ドメステック市場での09年度の売上高の伸び率は、ファストリテがギャップを大きく上回っており、ファストリテは国内で一定のポジションを確保したといえそうだ。

海外進出ではユニクロ優勢
【図1 2009年度 ファストリテ・ギャップ・H&Mの地域別売上高】

ドメスティックはユニクロなら日本、ギャップなら米国、H&Mなら北欧
1ドル=90円、1スウェーデン・クローナ=11円で計算
会社決算資料からモーニングスター作成

両社のグローバルな展開はどうか。グラフは09年度のファストリテの地域別売上高を示したものだ。(図1)ギャップもドメスティック市場での売上高が全体の大半を占めており、両社の地域別売上高比率は似通っている。一方、グローバルな展開で一歩進んでいるH&Mの地域別売上高構成比は北欧が16.1%、欧州が56.4%、その他地域が27.5%と上記2社とは大きく異なる。米国で苦戦を強いられるギャップには海外進出が期待されるものの、モーニングスターの見方は厳しく、「さらにファッション志向が高く、競争が激しい(米国と比べて)欧州やアジアで成功するとは考えにくい。ギャップはアジアでは一定のブランドを確立しているが、今後それを維持するのは困難と見ている。ギャップは独創的な商品を提供し、常に最新トレンドについていかなければ客足を店舗に向かせることは出来ないだろう」と分析している。

ギャップと比べると、ユニクロには伸びしろがありそうだ。08年度から09年度にかけてはその他地域の売上高が倍増。また、直近でも10年8月期上期の海外での営業利益が前年同期比4倍近くと大幅増益となった上、欧米の既存店が黒字化しており、海外でも同社ブランドが通用していることを証明している。6月24日には台湾にも進出することを発表、アジア展開は一段と加速しそうだ。

投資価値は

(表2)は両社のデータを比較した表となっている。トータルリターンは減収が続いたギャップが3年、5年と大きくマイナスとなったが、直近では米国市場の動向や反動高の影響で、直近1年のリターンはギャップの方が大きい。
 PER、PBRともにファストリテが高くなっているが、足元の業績や今後の海外事業への期待などを鑑みれば、単純にファストリテがギャップより割高とはいえない。両社は同じSPA業態だが、ファストリテの営業利益が相対的に高いこともポジティブだ。10年に入ってからの日本国内のユニクロ既存店売上高の不調は懸念材料といえるが、投資対象としてはファストリテが一歩リードしているといえる。

【表2】
ファーストリテイリング ギャップ H&M(参考)
市場 東証 ニューヨーク証券取引所 ストックホルム証券取引所
コード 9983 GPS H&M B
終値 13,520円 19.46ドル 215.6スウェーデン・クローナ
MSレーティング ★★★
トータル
リターン(%)
1年 3年 5年 1年 3年 5年
8.80 16.27 19.07 10.81 -8.41 -3.25
時価総額 1兆3,761億円 1兆1,203億円 3兆6,038億円
前期実績売上高 6,850億4,300万円 1兆2,870億2,900万円 1兆1,153億円
(除く付加価値税)
前期実績純利益 497億9,700万円 999億100万円 1,802億2,400万円
前期営業利益率(%) 15.9 12.8 21.3
総資産 4,632億8,500万円 7,506億6,900万円 5,979億9,300万円
PER
現在 5年平均
27.62 25.95
現在 5年平均
11.35 15.78
現在
10.9
PBR
現在 5年平均
5.3 38.67
現在 5年平均
2.58 2.89
ROA
(%)
11.47 14.17
ROE
(%)
19.09 23.76 42.2
データは6月30日時点
1ドル=約90円、1スウェーデン・クローナ=11円で試算
データは各社決算資料、Morningstar Directから取得

(宮本 裕之)

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