グローバル企業比較

週末特集世界の株式比較第5弾は世界の大手たばこ企業に焦点をあてた。 現在たばこ産業においてはその事業のネガティブな側面に注目が集まる傾向がある。例えば、各国の財政難による増税のはけ口となる可能性やたばこによる健康被害に対する訴訟リスクなどだ。しかし、産業自体の安定感に加え、新興市場においては大きな成長余地があり、投資対象としては決して他の産業に見劣りするわけではない。 今回は世界的な展開を図るたばこメジャーのフィリップ モリス インターナショナル<PM>、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ<BATS>、そして日本だけではなく世界でも活躍する日本たばこ産業(JT)<2914.T>の3社を取り上げた。

米国での訴訟リスク、いったん後退

6月28日、米国でたばこ産業に対する1つの司法判断が下った。米政府などによるたばこ業界への訴訟で、米最高裁判所は同業界が共謀しタバコの危険性を不法に隠匿してきたことを認める一方、米政府がたばこ会社に求めてきた過去の利益2800億ドル(日本でおよそ24.4兆円)の返還や禁煙運動の資金140億ドル(日本円で約1.2兆円)の拠出を棄却した連邦判事の判決を支持した。たばこによる健康被害については、依然訴訟リスクがつきまとうものの、目先はたばこ各社のキャッシュフローに大きなダメージを与える可能性のある訴訟リスクはいったん後退している。

増税はたばこ会社にプラス?
【図1 国内たばこの販売本数と代金】

国内のたばこは販売数量、販売代金とともに減少。
健康への懸念や2000年前半に相次いで施行された条例の
影響による喫煙スペースの減少などにより、販売数量の減少は顕著。
増税による数量・代金の顕著な減少は見られない。

出所:社団法人日本たばこ協会データよりモーニングスター作成
販売数量、代金ともに国産と輸入の合算

政府の財政難を背景に、特に先進国においてたばこ税の増税が頻発している。直近では米国のニューヨーク、ハワイなどの各州で7月1日からたばこ税が増税されたばかり。EUでも2014年までにたばこ税の最低税率が60%まで引き上げられることが決まっている。

 日本でも10年10月1日から、たばこ税が増税される。1本あたり3.5円の増税で、例えばJTの販売銘柄のおよそ半分を占める「マイルドセブン」は1箱70円値上がりする。さらに、増税に伴う販売数量の減少が見込まれることから、JTは同時に値上げも実施、「マイルドセブン」は1箱40円値上がりし、合計1箱410円となる(増税前は300円)。増税に伴う値上げは市場の予想以上で、市場では販売数量が以前より20%以上減少するとの見方も出ている。
 ただ、JTを筆頭とするたばこ会社の収益に関していえば、市場は楽観的だ。ゴールドマン・サックス証券では「値上げにより、日本のたばこ市場は数量よりも収益重視の市場に変化する過渡期に入った」とし、増税はたばこ会社の収益にポジティブに働くとみている。増税による需要減を経験してきた米国、英国でも、たばこ会社の取り分はしっかり守られてきたと指摘。また、野村証券でも、「積極的な値上げで国内たばこ事業の大幅な減益は免れられよう。海外事業の好調もつづいており、値上げのフル寄与による12年3月期以降の安定成長を評価する局面」と評している。

 日本ではこれまでにない大幅な値上げとなることから、一時的な需要の大幅減少につながる可能性は十分ある。ただ、海外の経験則からみても、増税=たばこ会社の収益圧迫というロジックは早計だろう。

ブランド力、新興国での成長が3社の鍵

モーニングスター、大手証券会社の見方を参考に、3社の事業を展望してみた。 フィリップ モリス インターナショナル(PM)の特徴はその圧倒的なブランド力。世界的に有名な「マルボロ」。「バージニア・スリム」や「パーラメント」など知名度の高い銘柄のほか、ニッチな銘柄としてイタリアの「ダイアナ(Diana)」やメキシコの「デリカドス(Delicados)」など地域に密着した銘柄も有する。

【図2 地域別販売数量・地域別売上高】

各社会社資料からモーニングスター作成

アジアでは成長性を秘めているインド、バングラディツシュ、ベトナムでのポジションを確立。巨大なマーケットである中国市場においても、中国最大の中国煙草総公司(China National Tobacco Corporation)と業務提携、ジョイントベンチャーの立ち上げも行なっている。

 モーニングスターでは「同社は過去3年間、合併などで売上高を年率7%増加させてきた。今後は新興国の成長や値上げで、長期的に同4%程度の伸びになる。収益性40%超の営業利益率を維持できる」と指摘。

 懸念材料は、短期的には景気減速による低価格ブランドへの顧客の流出。ロシアやCSI(旧ソビエト連邦の12カ国で形成された国家共同体)では比較的低・中価格のブランド(JTなど)へのシフトが進んでいる。また、長期的には各国の規制強化や、材料費の高騰が不安要素。現在たばこの葉を作っている畑は、今後数年の内により収益性の高いコーンなどへの移行が予想され、原材料価格の高騰につながるおそれがある。

 ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BATS)はフィリップ モリス インターナショナルの「マルボロ」のような世界的な象徴ブランドは保有していないものの、「ダン・ヒル」、「ラッキー・ストライク」、「ケント」などの確立されたブランドを持ち、東ヨーロッパやアジアなど成長地域では好位置をキープしている。モーニングスターでは「同社の全売上高の約40%を新興国が占めているとみられ、人口の増加や喫煙に対する規制のゆるさなどから、販売数量は中期的に数%程度見込める。対照的に、先進国では、新興国の伸びと同程度の割合で販売数量は減少するだろう。ただ、価格統制力や新興国での伸びを考慮すれば、今後10年の売上高は年平均5%増加してゆく」と分析している。

【図2 PM、BA、JTの株価推移】

2008年7月20日を基準として、当該3社、日経平均、ダウ工業株30種平均、FTSE100を指数化して表示

JTは数量で見た場合の世界トップ10ブランドの内、3銘柄がランクインしており、ブランド力では決して上記2社に見劣りしていない。ただ、成長が見込まれる新興国市場からの利益が他社に比べ少ないのが弱み。UBS証券によれば09年の新興国市場における純利益の割合は19%。PMの36%やBATSの53%に比べて低い。CISでは強さを発揮しているが、低・中価格製品中心で利益面での寄与は少ないとしている。 国内事業では中期的に製品の値上げによる業績への寄与が見込まれるものの、人口の減少、喫煙に対する規制の強化、値上げによる販売数量の減少などで大幅な成長は期待しづらい状況だ。

 11年3月期の会社計画では、海外たばこ事業が国内の同事業をカバーし、全体のEBITDA(税引き前利益に特別損益、支払い利息、減価償却費を加えた値で、多国籍企業の業績を評する際に用いられる)は前期比3%減となる見込み。国内事業は増税の影響で販売数量が大幅に減り前期比13%の減益となる一方、海外事業は値上げ効果や為替の影響で同8%増益となる見通し。特にロシアでは低価格志向がさらに強まっているもようで、足元では同社の販売シェアが増加している。

PM、BATSに軍配

投資対象としてはPM、BATSに軍配があがる。株価指標面ではPBRが1倍台と他2社に比べ安値圏にあるJTだが、収益性や今後の成長性を考慮すれば必ずしも割安とはいえない。リターンも2社はプラスとなっているが、JTはマイナスが続いている。配当利回りではPMが4.7%、BATSが4.4%と高い一方、JTは1.9%と低い。日本市場の配当利回りが低いことも影響しているとみられるが、投資対象としての魅力はPM、BATSと比べると見劣りしている。

 ただ、各国の増税を背景とした商品価格の上昇で、CSIのように低・中価格の商品にシフトする余地は十分残されている。今後、新興国でのシェアをいかに伸ばすかが今後のJTの課題といえそうだ。

(宮本 裕之)

【比較表】
  フィリップ モリス インターナショナル ブリティッシュ・アメリカン・タバコ 日本たばこ産業(JT)
市場 ニューヨーク証券取引所 ロンドン証券取引所 東京証券取引所
コード PM BATS 2914
終値 49.89米ドル 2,233.5(英ポンド) 26万9,900円
MSレーティング ★★★ ★★★(ADRでの評価)
トータル
リターン(%)
1年 3年 5年 1年 3年 5年 1年 3年 5年
10.41 33.65 12.01 18.26 -6.28 -22.26 -0.71
時価総額 8兆379億円 6兆165億円 2兆5,859億円
前期実績売上高 2兆1,780億円 1兆8,897億円 6兆1,347億円
前期実績純利益 5,518億円 3,608億円 1,384億円
前期営業利益率(%) 40.1 28.9 4.8
総資産 3兆60億円 3兆5,397億円 3兆8,726億円
PER 現在 5年平均 現在 5年平均 現在 5年平均
14.6 ―※ 16.4 15.9 18.7 16.5
PBR 現在 5年平均 現在 5年平均 現在 5年平均
18.9 ―※ 6.6 5.2 1.6 1.5
データは7月21日時点
1ドル=87円、1英ポンド=133円で試算
データは各社決算資料、Morningstar Directから取得
※アルトリアグループの1部門だった国際たばこ事業が08年3月に独立、フィリップ モリス インターナショナルとなったため5年平均の項目はなし

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