グローバル企業比較

医薬品業界は大きな過渡期に入っている。これまで医薬品の業績をけん引してきた主力医薬品の特許が2010年前後に相次いで切れるいわゆる「2010年問題」を抱えているためだ。グローバル企業比較第6弾は世界最大の医薬品会社ファイザー(PFE)、フランスの大手医薬品企業サノフィ・アベンティス(SAN)、そして日本が誇る世界の武田薬品工業(4502.T)に注目してみた。今後の成長余地や投資価値はあるのか?

相次ぐ特許切れ

医療業界において市場の最大の懸念となっているのが、これまで収益をけん引してきた主力製品の特許切れが相次ぐ、いわゆる「2010年問題」。特許切れが2010年前後に集中した背景には、1990年代初頭、米国の好景気を背景とした市場の拡大と物質の合成・精製能力が格段に進歩した経緯がある。これまでは特許を根拠とした独占販売による高い収益が業績をけん引してきたが、ジェネリック(後発)医薬品の台頭により、特許切れの製品の収益は大きく落ち込む傾向にある。


 ファイザーは2011年に高脂血症治療薬の「リピトール」、今後3年で抗うつ剤「エフェクサー」、ED(勃起障害)治療薬の「バイアグラ」などが相次いで特許切れを迎える。


 サノフィ・アベンティスは2012年の抗血栓剤の「ロベノックス」を筆頭に、2015年までに複数の主力薬品が特許切れとなる見込み。


 武田薬も状況は変らない。糖尿病治療薬「アクトス」が米国で2011年1月に、高血圧治療薬の「ブロプレス」が2012年6月に特許切れとなる。「アクトス」については武田とジェネリック医薬品企業との間で和解が成立しており、ジェネリック企業の参入は2012年8月までないとの見方が広がっているものの、近い将来相次いで主力製品が特許切れを迎える現状に変りはない。

特許切れのインパクト
【図1 ファイザー、サノフィ、武田薬の株価推移】

2007年7月末を基準として、当該3社、日経平均、ダウ工業株30種平均、FTSE100を指数化して表示

主力製品の特許切れによる収益へのインパクトは大きいと見ておくべきだろう。ファイザーは09年1月にバイオ医薬品、ワクチンに強みを持つワイスを買収、米国でのバイオ事業の拡大と新興国へのアプローチを強化。米モーニングスターでは、「仮にワイスの買収がなかったら、『リピトール』の独占販売権がなくなることにより09年12月期と同水準の売上高が今後10年間続いただろう。それでも『リピトール』の特許切れは同社の利益率を2%押し下げる」と指摘している。ファイザーは過去に高血圧症剤「ノルバスク」の特許切れを受け、数年間で売上高がほぼゼロになった経験を持つ。


 サノフィの「ロベノックス」は同社収益のけん引役となっており、09年は30億ユーロ(3420億円)と1製品で全売上高の約1割弱を占めている。さらに、売上高の伸びは前年比11%増と成長率も依然高い。独占販売権が切れる12年以降、売上の圧迫要因となることは避けられないだろう。


 武田薬については、複数のアナリストが「アクトス」の独占販売期限が切れることによる収益の圧迫は避けられないと想定している。後継薬と期待さていた糖尿病治療薬「SYR―322」の承認も米国で大幅に遅れており、主力医薬品の特許切れが収益に直接影響する見通しだ。

特許切れをM&Aで補完

医薬業界は特にM&A(企業の合併・買収)が多い業態。多くの医薬品会社は豊富なキャッシュを有しているうえ、製品の特許をすぐに取得できるなどのメリットが多いからだ。


 3社を含む大手医薬会社は特許切れによる収益の減少をM&Aで補う可能性が高い。前述の通りファイザーはバイオ、ワクチンに強みを持つワイスを買収したばかり。米モーニングスターでは「買収したワイスが開発したリウマチ治療薬『エンブレル』の効果やコストカットによりに成長路線を持続できる」と予想している。


 サノフィも買収ではないものの5月に日本国内ジェネリック医薬品大手の日医工(4541.OS) と共同出資会社を設立し、ジェネリック部門をさらに強化。また、一部報道によれば7月に米バイオ医薬品に強みを持つジェンザイムに買収案を提示する計画と伝わった。


 武田薬品工業は、がん領域に強みを持つ米ミレニアム・ファーマシューティカルズの買収を08年に発表している。ただ、武田に関しては、M&Aのメリットや戦略が見えにくい。ゴールドマン・サックス証券は、現在の社内パイプラインでは特許切れに伴う収益の減少を補えないと指摘。「成長を達成するための解決策としてはM&Aの可能性がもっとも高い」としている。

投資対象はファイザー、サノフィ
【図2 各社の新薬開発状況】

出所:会社資料を基にモーニングスター作成
(武田はフェーズ2〜3の合計数値を表示)

ファイザー、サノフィはともに今後数年は堅調な業績を維持する見通し。ファイザーは2012年の売上高見通しについて米医療制度改革の影響などを考慮しても、652億ドル−677億ドル(約5兆7376億円−約5兆9576億円)程度になると予想している。100を超える製薬の研究開発(図2)やワイス買収の効果、また新興国への積極的な事業展開が見込まれ、事業は拡大傾向をたどる見通し。ワイスを買収したにもかかわらず、依然100億ドル(8800億円)のキャッシュを保有しており、さらなる買収や提携に期待がかかる。


 サノフィは主力薬品の特許切れがあるにもかかわらず、10年第2四半期時点で会社側は2013年までの収益が2008年に匹敵するとの見通しを維持している。糖尿病向けインスリンの「ランタス」の売上が今後数年間期待できることや、足元で投入した心房細動治療薬「ムルタック」が四半期で3900万ユーロ(約45億円)と2010年に投入された医薬品のなかで最も好調だった(と米モーニングスターではみている)ことなど、新薬も育っている。


 一方、武田の業績見通しは厳しい。11年3月期の会社計画の予想売上高は前期比4.5%減の1兆4000億円、純利益は同26.1%減の2200億円と減収減益予想。市場では主要薬品の特許切れの影響を受け、14年3月期まで厳しい業績になると予想されており、武田薬は他2社と比べると投資対象としての魅力が落ちる。足元では実績配当利回りが5%近くあるが、市場では今後減配の可能性を指摘する声も出てきた。


 株価指標面では3社に大差はない。ただ、サノフィの直近のPERは11.3倍台と過去5年平均と比較した場合、大きく低下しており割安感がある。過去1年間の株価パフォーマンスでは、ファイザーが他の2社に対して大きく出遅れ、トータルリターンがマイナスとなっており、全体市場の動向次第では反騰の余地がありそうだ。(宮本裕之)

【比較表】
  ファイザー サノフィ・アベンティス 武田薬品工業
市場 ニューヨーク証券取引所 ユーロネクスト・パリ 東京証券取引所
コード PFE SAN 4502
終値 15.27米ドル(1,343円) 45.59ユーロ(5,197円) 3,980円
MSレーティング ★★★★★ ★★★★★(ADRでの評価)
※トータル
リターン(%)
1年 3年 5年 1年 3年 5年 1年 3年 5年
-0.40 -12.25 -6.99 24.03 -2.21 -3.12 6.14 -19.14 -5.40
時価総額 10兆5,929億円 6兆8,253億円 3兆1,417億円
前期実績売上高 4兆6,556億円 4兆1,071億円 1兆4,659億円
前期実績純利益 8,039億円 7,032億円 2,977億円
前期営業利益率(%) 22.2 20.7 28.7
総資産 19兆8,979億円 10兆6,919億円 2兆8,232億円
PER 現在 5年平均 現在 5年平均 現在 5年平均
14.0 17.5 11.3 22.6 10.6 17.0
PBR 現在 5年平均 現在 5年平均 現在 5年平均
1.4 2.3 1.2 1.8 1.5 2.3
データは7月28日時点
1ドル=88円、1ユーロ=114円で試算
データは各社決算資料、Morningstar Directから取得
※トータルリターン=配当金を考慮したリターン

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