米国の高速鉄道受注合戦でさらに注目集まる世界の鉄道企業[ビッグスリー VS 日本車輌メーカー]

いま、世界の輸送手段として大きな注目を集めているのが安全性や大量輸送性、定時性に優れ、かつ環境負荷の低い鉄道だ。今年4月には米オバマ大統領が、全米にまたがる高速鉄道網整備計画を発表。また、新興国を中心に続々と鉄道インフラへの投資計画が明らかになっており、業界には追い風が吹く。今回は鉄道業界で世界の「ビッグスリー」と呼ばれるカナダのボンバルディア<BBD.B>、ドイツのシーメンス<SI>そしてフランスのアルストム<ALO>と、世界展開に積極的な日本の車輌メーカー日立製作所<6501.T>、川崎重工業<7012.T>にスポットライトをあてた。

鉄道の「ビッグスリー」に挑む日本企業
【図1 世界の高速鉄道の路線距離の推移】

国際鉄道連盟(UIC)の資料を基にモーニングスターが作成

ボンバルディア、シーメンス、アルストムは、3社で世界の旅客鉄道事業市場の約6割を占めており(日本を除く)、日本企業は大きな水を空けられている。欧州では日本企業の入り込む余地は少ないとされており、日本企業が世界のビッグスリーに立ち向かうには高速鉄道未発達の米国や新興国しか残されていない。ただ、それら市場の成長余地は大きい。図1は世界の高速鉄道の路線距離の推移を示したものだが、世界の鉄道建設は今後大幅に増えそうだ。これは、それまでは日本や欧州を中心としたいわゆる鉄道先進国中心に路線が整備されてきたが、様々な角度から鉄道が見直され始めた近年、鉄道に対する需要が新興国を含めグローバルに拡大しているため。2024年には2009年に比べ世界の路線距離が約3.5倍になることが見込まれている。

海外への展開、特に新興国での受注獲得に向け力を入れている日本の車輌メーカーを挙げるとすれば、日立製作所<6501.T>と川崎重工業<7012.T>だろう。両社は米国での受注獲得に積極的に動いている上、中国、ベトナム、ブラジルにおける事業も拡大する方針を打ち出す。川重は米国に唯一本格的な車輌工場を持つ日本企業でもある。日本の鉄道技術は新幹線を筆頭に世界トップレベル。特に鉄道の特性である安全性や定時性は非常に高いレベルを維持しており、残された市場で戦える力を日本は十分持つ。

米国の高速鉄道網整備計画
【図2 米高速鉄道網整備計画概要】

(米運輸省の資料を基にモーニングスター作成)

オバマ大統領は2012年までに高速鉄道建設関連費用に80億ドル、さらに今後5年間で50億ドルを投じる方針。最大の資金配分先はカリフォルニアで約3割の23億ドル。次いでフロリダやシカゴが続く。路線の総延長距離は約1.4万kmと日本の新幹線の総距離の約6倍になる見通し。

日本の車輌メーカーの成長には、新興国への展開は必要不可欠。新興国への進出に強力な追い風となりうるのが、米国の高速鉄道網整備事業の受注獲得だ。仮に日本企業が米国の主要地域で受注を獲得できれば、知名度の拡大によるブランド価値の向上などが見込まれ、今後新興国での受注獲得にもプラスに働く公算が大きい。

オバマ大統領は今年4月、全米の高速鉄道網を整備する計画を発表した。背景には雇用創出を前提とした景気刺激策と環境問題を意識した「グリーンニューディール」の意味合いがこめられている。事業規模は当初80億ドル(1ドル=87円で約7000億円)、今後5年間で50億ドル(同4350億円)にのぼる巨大なもの。プロジェクトの中には複数の地域・路線が含まれているが、注目される地域は最大の予算が付与されているカリフォルニア。そして、予算が重点的に配分されているフロリダ、シカゴなどだろう。(図2)

現状では米国内でもやはり知名度は「ビッグスリー」に軍配が上がる。だが、日本企業も高速鉄道(新幹線)の分野では長い運行の歴史を誇り、安全性や定時性への評価は高い。また、日本はこれまで国をあげての民間の海外事業獲得にはあまり積極的ではなかったが、今回は官民一体となり海外事業の獲得に乗り出している。前原誠司国土交通相も米国を含め世界に積極的な日本企業の売り込みを行ない始めた。

米アナリストによるビッグスリーの見方

ビッグスリーを投資対象と見た場合、各3社の業績動向はどうなるのか。
鉄道などインフラ関連企業は、各国政府の景気対策としてのインフラ事業投資による恩恵を受けるのは確実で、ビッグスリーの鉄道部門については総じてポジティブな見解が多い。ただ、米モーニングスターのアナリストなどは「鉄道関連事業以外は苦戦が強いられる」と指摘している。

まず、ボンバルディアは主力の航空機部門の業績が懸念材料だろう。市場は大型機への需要が進んでおり、ライバル企業にシェアを奪われつつある。ボンバルディアは2011年に大型機を投入するとみられ、2010年は同社の小型機需要の減退が予想される。一方、鉄道部門は各国の景気刺激策を背景としたインフラ投資の恩恵を受け堅調に推移しそうだ。同社の世界における旅客鉄道事業における巨大なシェアは今後有利に働く公算が大きい。ハイブリッド車輌も受注獲得の武器となろう。米モーニングスターでは「輸送部門の売上高は今後5年間の間、3〜4%の伸びが続き、営業利益率は5%近辺を維持するだろう」と予測している。

シーメンスについては全売上高の約6割を欧州であげており、金融不安の渦巻く同地域でマイナスの影響を受ける公算が大きい。利益率は高い水準を維持しているが、コストカットによるもので今後同じ水準を保つのは難しいと見られる。鉄道部門は新興国を中心に景気刺激策の好影響を受ける見込み。

アルストムはボンバルディアを比べると高速鉄道に強みを持つなど、特定分野の事業に特化している。新興国の鉄道関連事業の受注ではシーメンスと競合するが、鉄道関連事業の需要は両社にとって十分だろう。もっとも、「エネルギー分野における足元の受注の弱含みから2011年は大幅な減収、利益率は大幅に低下する公算が大きい」とモーニングスターは分析している。

日立と川重

11年3月期業績は両社ともに回復基調を辿る見通し。日立は主力の情報・システム部門が国内IT業界の底打ちから増収・増益となる見込み。川重は二輪車の持ち直しや半導体製造装置メーカー向けロボットの需要改善が予想される。コスト削減も奏功しているようで、11年3月期は増収、営業黒字への急回復を計画する。 日立の鉄道事業は海外成長が今後の柱。6月9日に発表した「2012 中期経営計画」では、鉄道システム事業の売上高を09年度実績の1502億円から2015年度までに3200億円まで拡大する方針を示した。営業利益率8%、海外売上高比率60%を目指す。6月22日には三菱重工業<7011.T>と海外向け都市内鉄道システム事業で業務提携を結んでいる。 一方、川重は都市化が進むアジア諸国と北米の事業拡大を見込み、車輌事業の売上高を2020年までに3000億円(10年は1450億円)にする計画を掲げている。米国やベトナムには営業運転速度が350km/hの新型高速鉄道車両「efSET」を投入していく。最高営業速度ではシーメンス「ICE」(ドイツの高速列車)の330km/hを上回る。

5社を投資対象として比較

5社を比較してまず目に付くのが、ビッグスリーの営業利益率の高さ(表1)。欧州の2社は8%台となっており、2%台の日立、営業赤字転落の川重と日本企業に比べて収益性に優れている。ただ、主要因はコスト削減で、今後も同じ状況が続くかは疑問だ。リターンは5社とも長期的には優れない数字となっているが、ボンバルディア、シーメンスは全体市場の回復を背景にここ1年間で大幅なリターンとなっている。足元の受注状況の弱含みを受けているアルストムのパフォーマンスは低い。
投資対象としてはシェアの優位があるボンバルディア、今期復調が予想され、PBRが比較的低い水準にある日立、川重に妙味がありそうだ。

人気の鉄道関連ファンド

鉄道事業には投資対象としての魅力が増しており、鉄道関連事業会社を投資対象とする投資信託の人気も高まってきた。鉄道株関連ファンドを利用すれば、世界の鉄道関連企業に簡単に投資することが出来る。
10年1月に設定された「JPM世界鉄道関連株投信」は7月8日現在、2010年に入り設定された国内投資信託の株式型で純資産残高が全体の2位と話題を集めた。10年4月に設定されたドイチェ・アセット・マネジメントの「DWS鉄道関連株式ファンド」も同時期に設定された「DWS次世代自動車関連株式ファンド」に比べ純資産残高が多くなっており(7月8日現在)人気が高い。また、国際投信は7月27日に「グローバル鉄道関連株オープン」を新規設定する予定となっており、鉄道関連投資が再度注目を集める可能性もある。

【表1】
ボンバルディア シーメンス アルストム 日立製作所 川崎重工業
市場 トロント証券取引所 フランクフルト証券取引所 ユーロネクスト・パリ 東京証券取引所 東京証券取引所
コード BBD.B SI ALO 6501 7012
終値 5.0(カナダ・ドル) 72.7(ユーロ) 38.62(ユーロ) 330円 213円
MSレーティング ★★★ ★★★(ADRでの評価) - - -
トータル
リターン(%)
1年 3年 5年
43.23 -7.49 14.19
1年 3年 5年
53.82 -10.18 5.06
1年 3年 5年
-7.93 -31.55 -
1年 3年 5年
7.64 -27.97 -13.47
1年 3年 5年
-17.41 -23.27 1.34
時価総額 7,269億3,800万円 7兆3,282億円 1兆2,247億円 1兆4,765億円 3,552億5,200万円
前期実績売上高 1兆6,848億円 8兆4,316億円 2兆613億円 8兆9,685億円 1兆1,735億円
前期実績純利益 615億円 2,521億円 1,220億円 -1,070億円 -109億円
前期営業
利益率(%)
6.3 8.3 8.2 2.3 営業赤字
総資産 1兆8,508億円 10兆4,419億円 2兆6,668億円 8兆9,518億円 1兆3,524億円
PER
現在 5年平均
10.1 24.8
現在 5年平均
19.5 23.5
現在 5年平均
10.1 -
現在 5年平均
- -
現在 5年平均
- 34.5
PBR
現在 5年平均
2.4 2.8
現在 5年平均
2.4 2.4
現在 5年平均
3.9 24.4
現在 5年平均
1.2 1.0
現在 5年平均
1.3 2.0
ROA
(%)
3.3 2.4 4.9 - -
ROE
(%)
25.2 8.6 43.8 - -
データは7月7日時点
1ドル=約87円、1ユーロ=約110円、1カナダドル=約83円で試算
データは各社決算資料、Morningstar Directから取得

(宮本 裕之)


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