米国の高速鉄道受注合戦でさらに注目集まる世界の鉄道企業[ビッグスリー VS 日本車輌メーカー]

海外株式比較第四弾は世界の大手海運株に焦点を当て、投資対象としての価値を探ってみた。欧州や中国の景気後退懸念などを背景に、用船需要が減退するとの見方から、用船料の価格が急落している。用船価格の下落は海運各社の業績に大きく影響する。今後の海運市況、そして海運株の行方は?今回は世界最大手のA.P.モラー・マースク<MAERSK B>、世界最大規模のドライバルク船群を保有するチャイナ・コスコ・ホールディングス<1919 HKG>、そしてアジアで最も多くの運航船舶数を誇る商船三井<9104.T>にスポットライトを当てた。

用船料の指数、BDI下落の背景
【図1 BDIと中国の鉄鉱石港湾在庫の推移】

バルチック海運指数(BDI)は1985年の年平均運賃を1,000とした海運指数
出所:英バルチック海運取引所、ブルームバーグデータよりモーニングスター作成

現在、バルチック海運指数(BDI)の下落が続く。BDIとは鉄鉱石などを運ぶばら積み船の外航不定期船運賃指数のことで、船舶の運賃の動向は海運各社への業績に直結することから、同指数の注目度は非常に高い。
5月末に4000ポイント台だった指数は7月14日現在で1709ポイントまで落ち込み、6割近く下落。背景には鉄鉱石などを輸送する大型ばら積み船の需要減退による用船料の急落と海運業界のいわゆる「2010年問題」が再度意識され始めたとの見方が多い。
大型ばら積み船の用船料急落は、中国の鉄鉱石の在庫積み上がりから、中国向けの船舶需要が落ち込むとの連想につながっている。図1はBDIと中国鉄鉱石の港湾在庫の推移を示したものだが、BDIは中国港湾在庫が積み上がると下落する傾向が見て取れる。中国の鉄鋼石の港湾在庫は6月末時点で7600万トン超。08年ばら積み船市況が暴落する直前の7500万トンを上回る水準に積み上がっている。在庫だぶつきの要因は中国が鉄鉱石の国際価格値上がりけん制を目的に、安価な純度の低い国内産にシフトしているようだ。
もう1つの懸念材料が新造船に伴うばら積み船の供給過剰問題。過年度に発注された船が2010年に大量に市場に出回り、船舶の供給過多につながるという業界の構造的問題とされている。10年上旬にはいったんこの懸念が後退したものの、ここに来て再度不透明感が意識されてきた。

市場は強気
【図2 マースク、チャイナ・コスコ、商船三井の株価推移】

2007年7月14日を基準として、当該3社、日経平均、香港ハンセン、FTSE100を指数化して表示

一方、急落している海運市況とは逆に、市場では海運株に対する強気な見方が広がっている。
モーニングスターのアナリストは、「マースクは、人員削減による効果と新造船の供給を吸収できると見られることから、船舶事業の収益が改善してくる」と指摘。同社は船舶事業で世界シェアの10%以上を握っており、価格交渉の面でも優位性を発揮する公算が大きい。
チャイナ・コスコ・ホールディングスについては、野村証券が「ドライバルク船セクターの見通し改善を背景に業績回復が期待される」と分析している。チャイナ・コスコの10年第1四半期ドライバルク船部門の貨物取扱量は前年同期比8.3%増と堅調に推移。中国圏(ドメスティック市場)の取扱量は同9.9%減となったが、それ以外の市場の貨物取扱量が大きく増えた。また、船舶の稼働日数を見ても、ケープサイズ、パナマックスなど大型船を中心に高稼働が目立った。野村証券はチャイナ・コスコの損益分岐点はBDIで2800ポイントと想定しており、第1四半期は損益分岐点を上回って用船料が推移したことが奏功した。
商船三井もドライバルク、コンテナ船(定期船)の需給が足元で強まっていることが業績の押し上げにつながるとの見方が優勢だ。中でも、コンテナ船(定期船)事業の復調が大きな鍵を握っている。コンテナ船事業は同社前売上高の35%を占める第2位事業だが、前10年3月期の同部門の経常損益は569億円の赤字と事業全体の足を引っ張った。商船三井は11年3月期会社計画の経常利益を1000億円としているが、需要の改善を背景にコンテナ船事業が50億円の黒字に回復することが前提となる。ドライバルク部門の経常利益計画は800億円(前期比19.4%増)と2ケタ増益となる見通し。メキシコ湾におけるBP社のオイル流出事故を契機に、オイルメジャーによる運航基準の厳格化も進んでおり、同社の売り上げ規模としては小さいものの、タンカー運賃市況の改善が追い風になるとの見解もある。

マースクが一歩リード

3社に共通しているのは、株価が割安圏にあるということ。(比較表)の直近PBRでは3社ともに1倍台、5年平均でみても、割高感はさほどない。
投資対象としてはマースクが頭1つ抜け出している。過去1年間のパフォーマンスを見ても、同社株が大きなリターンをあげた。これは、船舶事業の規模や高採算性に加え、同社の石油・ガス事業が高く評価されていることによる。モーニングスターではカタールや北海など開発の難しいとされる地域での石油探査や採掘自体に非常に高い競争優位性があると見ており、仮に他の事業が落ち込んでも十分カバーできるとしている。
同社株に対しては、海外機関投資家の注目度も高い。6月23日〜25日に開催された「モーニングスター・インベストメント・カンファレンス」において、米資産運用会社フランクリン・テンプルトンの運用マネジャーであるフィリップ・ブルジェール−トレラー氏は注目株として同社をあげた。「09年の欧州ユニバースの中でもっとも売りを浴びた株。直近では株価は反騰局面にあるものの、株価の割安感は依然強く、上値余地は大きい。豊富な資産を保有し、規模的にも市況回復の恩恵を最も受けられる」と指摘した。
100年近く続いた同族経営から、07年に新たなCEO(最高経営責任者)を外部から迎え、大規模な事業改革を断行推進していることもポジティブな材料。前期は世界的な不景気の影響を受けたものの、利益率の高いオイル&ガス事業が収益性を押し上げるなど、事業の多角性も評価に値する。

【比較表】
  A.P.モラー・マースク チャイナ・コスコ・ホールディングス 商船三井
市場 コペンハーゲン証券取引所 香港証券取引所 東京証券取引所
コード MAERSK B 1919(A株コード601919) 9104
終値 52,090(デンマーク・クローネ) 7.92(香港ドル) 612円
MSレーティング ★★★
トータル
リターン(%)
1年 3年 5年
22.61 -21.61 -7.47
1年 3年 5年
-20.59 -18.24 12.22
1年 3年 5年
-4.35 -28.37 -2.13
22.61 -20.59 -4.35
時価総額 3兆4,341億円 8,743億円 7,323億円
前期実績売上高 3兆9,004億円 8,900億円 1兆3,479億円
前期実績純利益 -823億円 -971億円 127億円
前期営業利益率(%) 7.8 営業赤字 1.6
総資産 5兆1,780億円 1兆7,906億円 1兆8,613億円
PER
現在 5年平均
4.98
現在 5年平均
6.74
現在 5年平均
59.88 9.59
PBR
現在 5年平均
1.44 1.54
現在 5年平均
1.32 1.68
現在 5年平均
1.11 2.48
ROA
(%)
0.69
ROE
(%)
1.98
データは7月14日時点
1デンマーク・クローネ=15円、1香港ドル=11円
データは各社決算資料、Morningstar Directから取得

(宮本 裕之)


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