グローバル企業比較

化粧品業界のグローバル化が進む。生き残りをかけた戦いは市場の拡大が見込まれる新興国に舞台を移し、新たなステージに突入しようとしている。
 グローバル企業比較第9弾は世界大手の化粧品会社を比較対象とした。日本の化粧品業界を引っ張る資生堂(4911.T)、フランス地盤で世界最大の化粧品会社ロレアル(OR)、米国の大手化粧品メーカーのエスティローダー(EL)を取り上げる。

グローバル化を加速させる資生堂
【図1 3社の売上高比較】

各社決算資料からモーニングスター作成
3社とも前期実績

海外市場での展開という意味では、資生堂はロレアル、エスティローダーに遅れをとる。図1は比較対象3社の主要市場と海外市場の地域別売上高を示した図だが、資生堂はロレアル、エスティローダーと比べ海外市場の売上高比率が低い。一方、世界最大手のロレアルは主力の西ヨーロッパ市場以外での売上高比率が56.7%、エスティローダーは米国以外の売上高比率が53.3%といずれも売上の半分以上を海外に頼っている。
 資生堂はグローバル化を強化し、今後の成長につなげたい考え。その切り札が中国を中心としたアジア市場での売上拡大。特に中国の化粧品市場は中間所得者層の増加を背景に、今後年率10%程度で成長することが見込まれている。現在、この市場を独占している企業はなく、世界最大手のロレアルでさえ、アジア(日本含む)での売上高は約2400億円、市場シェアは6.8%(ロレアル調べ)。ロレアルが世界のマーケットで唯一シェアが10%に満たない市場となっている。中国での資生堂のシェアもロレアルと同程度とみられ、資生堂にはシェアを大きく伸ばすチャンスが広がっている。

低価格商品

アジアでのシェア拡大に向け、資生堂は今秋から低価格帯の新化粧品ブランド「専科」を、日本を含めたアジア市場に投入する。資生堂はこれまで2000−5000円の中価格帯商品や、5000円以上の高価格帯の商品を中心に展開していた。
 資生堂は低価格帯商品の参入で、利益よりもまずはシェア獲得を優先。一部では競争激化を背景とした苦戦を予想する向きもあるが、アジアでは比較的確立されたブランドを持つ同社の低価格商品は市場で受け入れられる公算が大きい。ただ、シェア獲得のための広告などマーケティング費用の増加が想定される。結果として、中国事業の営業利益率は会社目標の16−17%を下回って推移する可能性が高い。
 低価格商品の潮流は、ロレアル、エスティローダーにとって痛手となりうる。ロレアルの主力商品は専門性が高い高級化粧品となっており、これら商品が売上高の多くを占めている(09年12月期は約37%)。エスティローダーもネットなどを通じ中国での展開をはかっているものの、「クリニーク」や「MAC」など中・高価格帯のブランド商品が多い。

3社の業績見通し
【図2 資生堂、ロレアル、エスティローダーの株価推移】

資生堂の11年3月期会社計画の売上高は前期比9.4%増の7050億円。米自然派化粧品会社「ベアエッセンシャル」の連結子会社化や欧米市場の回復など海外化粧品事業の伸びが増益をけん引する見通しで、鍵を握るのは不振が続いていた国内事業と低価格帯商品の動向。国内化粧品事業の下期計画は前年同期比2%増収と回復傾向をたどることが前提となっている(11年3月期第1四半期は同5.5%減収)。
 足元の月次国内化粧品販売会社売上高は6−7月が前年同月比で増加しており、国内化粧品事業には底打ちの明るい兆しが見え始めている。もっとも、「夏物商材(日焼け止めやデオドラント)の需要増加によるところが多く、主力商品であるスキンケアやメーキャップ商品が回復しているわけではない」(大和証券キャピタル・マーケッツ)との見方もあり、国内売上高回復というにはもう少し様子見が必要な状況だ。
 ロレアルは10年12月期上期の高級品部門売上が前年同期比9.7%増加したことは特筆すべき事項だろう。「イブサンローラン・ボーテ」などの買収により、高級品部門を強化したことが奏功した。モーニングスターでは、高級品部門の好調が年末まで継続するかどうかは不透明とみているものの、エマージング市場への新製品投入などで同社の売上高が今後5年間で5%程度ずつ成長すると予測。約70%の売上高を西ヨーロッパと北米で上げている同社にとって、新興市場への参入余地があるとみられる。また、事業統合などによるコスト削減効果で、13年までに営業利益率は17%まで上昇すると予想する。
 エスティローダーについてモーニングスターは、一層のマーケティングへの投資が必要で、今後の売上高成長に大きな影響を及ぼすと指摘。エマージングマーケットの市場拡大の恩恵を受け11年6月期は4.8%の増収が見込まれているが、主要市場では低価格化粧品の台頭でデパートでのシェアを失っている状況が続く。また、同社売上高のおよそ40%を占める免税店事業だが、直近の航空機需要の減少の影響で、苦戦を強いられている点も懸念材料として挙げられる。

投資対象は資生堂、ロレアル

モーニングスターでは資生堂とロレアルに投資妙味があるとみる。3社のトータルリターンを比較すると、資生堂28%、ロレアル13%に比べエスティローダーは57%と高いリターンを上げており、株価指標面でも直近のPER、PBRともに他の2社と比べ割高な水準。さらに、実績配当金利回りもエスティローダーは他2社に比べ低水準にあることから、インカムゲインへの期待も乏しい。
 一方、ロレアルは圧倒的な規模や世界に拡散された売上高構成をみた場合、他2社と比べ優位性がある。資生堂は低価格製品投入によるアジア市場の開拓や国内事業の底打ち期待が買い材料となりそうだ。
(宮本裕之)

【比較表】
  資生堂 ロレアル エスティローダー
市場 東京証券取引所 ユーロネクスト・パリ ニューヨーク証券取引所
コード 4911 OR EL
終値 1,869円 78.33ユーロ(8,616円) 58.56ドル(4,977円)
MSレーティング ★★
※トータル
リターン(%)
1年 3年 5年 1年 3年 5年 1年 3年 5年
28.34 -7.56 5.54 12.83 -11.37 1.56 56.89 1.09 5.06
時価総額 7,485億円 5兆1,609億円 9,934億円
前期実績売上高 6,442億円 1兆9,219億円 6,225億円
前期実績純利益 336億円 1,971億円 185億円
前期営業利益率(%) 7.8 14.8 5.7
PER 現在 5年平均 現在 5年平均 現在 5年平均
22.1 - 25.5 21.8 26.8 19.6
PBR 現在 5年平均 現在 5年平均 現在 5年平均
2.1 2.4 3.4 3.4 5.9 4.9
データは8月18日時点
1ドル=85円、1ユーロ=110円で試算
データは各社決算資料、Morningstar Directから取得
※トータルリターン=配当金を再投資した累積リターン

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