グローバル企業比較

夏といえばビール。今夏は日本で記録的な猛暑となっている上、世界的にも多くの地域で異常高温がみられ落ち込んだ需要の回復が期待できるものの、全体的にみればビール企業は市場の成長鈍化やビール離れなどを背景に苦戦を強いられている。一方で、投資対象としては再編期待もくすぶっていることから注目度は高い。グローバル企業比較第7弾はバドワイザーやベックスなど世界トップ10のうち4つのブランドを保有する世界最大のビール企業アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABI)、日本国内で激しい競争を繰り広げているアサヒビール(2502)、キリンホールディングス(2503)を取り上げる。

ビール業界、世界的に苦戦
【図1 アサヒ、キリン、インベブの株価推移】

解説:2007年8月を基準とし、3社のトータルリターンを指数化

アサヒは7月30日に10年12月期連結業績予想の下方修正を発表。国内酒類事業の伸び悩みが影響し、予想売上高を従来計画の1兆5000億円から1兆4870億円(前期比1.0%増)に減額した。純利益は従来想定の520億円(前期比9.1%)を据え置いた。増収増益は維持する見通しだが、苦戦の印象は拭えない。対するキリンHDの10年12月期の予想売上高は前期比2.6%減の2兆2200億円、純利益は同2.4%減の480億円と小幅ながら減収減益計画だ。酒類分野では増収となる見込みだが、ビールの売上減少と酒類部門以外での減収を見込んでいる。世界最大のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABI)も順風満帆ではない。10年12月期第1四半期(1月〜3月)は小幅ながら増収増益維持したものの、モーニングスターでは10年の売上高が前期比2%減の360億1900万ドル(1ドル=87円で3兆1336億円)と減少すると想定している。米国やユーロッパなど主力市場での不調が影響する見通し。


 今年の猛暑でビールを含めた飲料の販売数量回復は見込めるものの、全体論からいえばビール各社は苦戦を強いられているといえるだろう。

地域別売上高にみる、3社の違い
【図2 世界各国のビール消費量】

【ビール消費量世界トップ10】
中国 351.9
米国 205.6
ロシア 93.3
ブラジル 88.3
ドイツ 77.7
メキシコ 54.8
日本* 52.1
英国 43.8
ポーランド 30.4
スペイン 27.8
(単位は百万バレル)
日本は発泡酒、第3のビールを含む
アサヒビールのアニュアルリポートからモーニングスター作成

苦戦が続く3社だが、地域別の飲料部門の売上高比率を比べると大きな違いがある。


 (図2)は08年のビールの消費国トップ10と上位国の消費量の推移を示したものだ。中国を筆頭にブラジルやロシアなど新興国は02年以降、堅調な伸びを示している。一方、米国をはじめとした先進国は低成長が目立ち、ドイツ、日本、英国にいたっては市場が縮小傾向にある。先進国では若年層のビール離れに加え、人口減少など中・長期的に市場の見通しは暗い。


 各社の現時点での地域別売上高を見てみると、キリンHDの海外売上高が24.8%、その内訳はアジア・オセアニアが20.6%、欧米が4.2%となっている。アサヒの海外売上高比率は10%にも満たない。一方、ABIは全世界にまんべんなく売上を分散。欧米を除いた新興国の売上高比率は6割近くにのぼる。さらに、モーニングスターの試算によるマーケットシェアではブラジルで69%、アルゼンチンで74%、米国で49%、カナダで42%と巨大なアメリカ大陸の市場で無類の強さを発揮している。今後成長が期待できる市場を含めた世界展開において、日本の2社は大きく出遅れているといえそうだ。

再編期待高いビール業界、日本企業は積極的な姿勢

ビール業界では再編への期待が高く、しばしば株価の触媒となるケースがある。同業界において、M&A(企業の合併・買収)のメリットは大きい。主な理由としては新興国への進出、原材料調達の一元化やパッケージの統一などによる大幅なコスト削減が期待できるからだ。


 世界最大のビールメーカーABIも08年、ベルギーのインベブが米国のアンハイザー・ブッシュを買収して誕生した経緯を持つ。日本国内では、キリンHDとサントリーホールディングスの大型合併交渉が今年に入り決裂したばかりだが、依然再編に対する期待は高い。


 日本の2社は海外へ食指を積極的に伸ばしている。アサヒは09年に豪州の飲料市場でシェア2位の「シュウェップス」を買収。さらに中国では「青島ビール」と連携し、成長著しい中国市場での基盤拡大を推進中だ。09年11月には「青島ビール」と戦略的提携を加速すると発表し、「青島ビール」の拠点や販売網を通じたアサヒブランドの浸透を図っている。


 キリンHDは7月26日、シンガポールの「フレイザー&ニーヴ社」(F&N社)の発行済株式総数の14.7%をシンガポールの政府系投資会社テマセックから取得すると発表した。F&N社の売上構成はビールが24%、18%が乳製品、10%が飲料。東南アジアの飲料市場では高いシェアをほこり、マレーシアで25%、シンガポールで21%、ベトナムで38%とトップに立っている。キリンHDはこれまで東南アジアでの事業拡大を掲げていたが、事業が進まず課題案件となっていた。ゴールドマン・サックス証券では「純投資に過ぎないのか、それともシナジー効果が見込まれる戦略投資となりうるか、今後の確認が必要」としながらも、市場では東南アジアへの布石を打ったことに一定の評価を与えている。


 一方、ABIは目先、統合の効果を最大限に発揮するためM&Aなど「外」のオペレーションよりも、コストカットや事業の整備など「内」のオペレーションに注力するとみられる。

ABIの収益力に魅力

投資対象としてみた場合、ABIが他の2社に比べより魅力的とみる。ABIは売上の規模はさることながら、その収益性が目を引く。モーニングスターの予想では収益率を表すEBITDA(税引き前利益、減価償却費を合計した数値)を売上高で割ったEBITDA利益率(企業の収益性を表す1つの指標)が09年の35.5%から2014年には37.2%に上昇する見通し。キリン、アサヒともに10%に満たない。ABIの収益率上昇を予想する背景には、アンベブとアンハイザー・ブッシュが合併した際に掲げていたコスト削減目標の15億ドル(約1305億円)を既に達成し、会社側は同目標を22.5億ドル(約1958億円)に高めたことに起因している。ABIは今後統合による原材料の大量調達や製造ラインの効率化などでコスト削減効果をさらに拡大する意向。


 直近1年でのリターンが大きいのはABIだが、その株価は他の2社と比較しても割高感は依然みられない。 アサヒ、キリンHDに投資価値を見い出すとしたら、事業拡大へののびしろだろう。両社は海外への進出やM&Aへの積極的な姿勢が垣間みえ、成功した場合の成長余力は大きい。(宮本裕之)

【比較表】
アサヒ キリンHD アンハイザー・ブッシュ・インベブ
市場 東京証券取引所 東京証券取引所 ユーロネクスト・ブリュッセル
コード 2502 2503 ABI
終値 1,554円 1,145円 41.31ユーロ
MSレーティング ★★★(ADRでの評価)
※トータルリターン(%) 1年 3年 5年 1年 3年 5年 1年 3年 5年
3.09 -2.46 4.38 -16.88 -10.77 2.67 46.59 -1.93 12.81
時価総額 7,119億円 1兆1,011億円 7兆4,317億円
前期実績売上高 1兆4,724億円 2兆2,784億円 3兆1,979億円
前期実績純利益 476億円 491億円 4,013億円
前期営業利益率(%) 5.6 5.6 28.0
総資産 1兆4,336億円 2兆8,611億円 9兆7,896億円
PER 現在 5年平均 現在 5年平均 現在 5年平均
15.0 18.2 22.3 25.3 18.3 18.4
PBR 現在 5年平均 現在 5年平均 現在 5年平均
1.2 1.6 1.1 1.5 2.8 2.3
データは8月2日時点
1ドル=87円、1ユーロ=114円で試算
データは各社決算資料、Morningstar Directから取得
※トータルリターン=配当金を再投資した累積リターンで、年率化された数値

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