グローバル企業比較「環境厳しいが航空各社に復調の兆し=ANAvsデルタ航空vsエールフランス−KLM」

成長、不振、破綻、復活・・・そして再生。航空業界はこれまでも、苦難を幾度となく乗り越えてきた。景気後退、格安航空の台頭による価格競争、不採算路線の縮小など業界は難局に直面している。
 今回は世界最大の航空会社米デルタ航空(DAL)、欧州最大のエールフランス-KLM(AF)、日本のANA<9202.T>を投資対象として比較、航空業界の現状を探った。

苦戦続く航空産業

国際航空運送協会(IATA)事務総長のジョバンニ・ビジニャーニ氏は、航空専門誌の「ATW」10年9月号のなかで09年の航空業界について、経済危機や景気後退の影響を受け航空会社の売上高が全体で前年比14.4%減、損失が99億ドル(8316億円)となった「ひどい年だった」とコメント。旅客数が前年比1.4%の減少で、米国同時多発テロが発生した01年の同1.7%減以来の落ち込みとなった。

ただ、01年と09年では大きな違いがあるという。01年は全世界でまんべんなく旅客数が減少したのに対し、09年は西欧・中欧、北米、日本といった先進国において乗客数が軒並み減少したものの、アジアや南米などの新興国は堅調だった。また、先進国では地域空港の旅客数減少が大きかったのに対し(ハブ空港の減少は限定的)、新興国ではこれら地域空港の乗客数増加が目覚ましかったという。
 先進国を拠点とする比較対象の3社の09年の旅客数は軒並み減少した。(図1)

3社の業績に復調の兆し
【図1】航空大手の09年旅客数の対前年比
  09年の旅客数
(千人)
前年比
デルタ航空 161,047 -6.2
サウスウエスト航空 101,430 -0.6
アメリカン航空 85,719 -7.6
エールフランス-KLM 71,394 -3.3
ライアンエアー 66,500 13.5
中国南方航空 66,279 13.8
ユナイテッド航空 56,083 -11.2
ルフトハンザ 55,589 -2.6
USエアウェイズ 51,016 -6.9
日本航空 47,952 -9.3
コンチネンタル航空 45,573 -6.4
イージージェット 45,164 3.4
全日本空輸 44,562 -5.6
中国東方航空 44,043 18.3
中国国際航空 39,841 16.3
ブリティッシュ・エアウェイズ 31,825 -3.9

ATW資料よりモーニングスター作成

リーマン・ショック後の景気回復を受け、10年は世界的に旅客数や貨物量が09年と比べて増加し、直近3社の業績には明るい兆しが出てきた。

ANAの11年3月期第1四半期(10年4−6月)の売上高は前年同期比13.7%増の3068億円。最終赤字は52億5400万円だったが、前年同期の292億200万円から大幅に赤字幅が縮小。国際線の旅客数は前年同期比26.2%増と大幅に増加しており、国内線の旅客数も微増ながらプラスを維持した。

デルタ航空の10年12月期第2四半期売上高は前年同期比16.6%増、最終損益は前年同期の2億5700万ドルの赤字(約215億円の赤字)から4億6700万ドルの黒字(約392億円)に改善し、ここ10年間でもっとも良好な決算をたたき出した。コスト管理の徹底により、営業利益率は10%(前四半期は0.9%)まで上昇した。
 もっとも、モーニングスターでは決算自体は評価しているものの、旅客数の伸びが前年同期に比べ2%増にとどまったことにやや失望したとしている。前年は旅客数が大幅に減少したことから、今期は大幅な伸びが期待されていたにもかかわらず、あまり伸びていない。

エールフランス−KLMの10年3月期第1四半期決算も好調だった。売上高は前年同期比10.7%増、最終損益も黒字転換。アイスランドの火山噴火による影響を受けたものの、旅客、荷物の取り扱い増加により、業績は堅調に推移した。

3社の業績見通し
【図2 ANA、デルタ航空、エールフランス−KLMの株価推移】

ANAは11年3月期予想売上高を1兆3600億円(前期比10%増)、最終損益損益を50億円の黒字(前期実績は573億円の赤字)転換を想定している。

旅客数の回復が今後も想定されることや日本航空(JAL)の再生に伴う国内航空市場の需給改善、羽田再拡張に伴う国際線の収益拡大などが期待できる。今後の注目点の1つは羽田の滑走路拡大に伴う中国便の増便だが、中国側の発着枠の確保が難しくなっていることから(中国国内では国内旅客需要が急増し、日本への発着枠割り当てが困難な状況)、当初計画されていた10年10月の中国便増便は見送られる。今後も日中間での交渉は継続される見通しとなっており、交渉の進展いかんによってANAにとってポジティブにもネガティブにも働きそうだ。

デルタ航空の12年までの売上高の増加率は毎年6%程度、営業利益率は8%程度を維持するとモーニングスターでは予想。世界最大のアトランタ国際空港での存在感やニューヨークでの高い知名度など、同社は規模の面で優位性を持つ。デルタ航空とノースウエスト航空の合併(08年)によるコスト削減効果が進んでいる点も評価できよう。

エールフランス−KLMは競合との価格競争に遅れをとっている。同社は04年のエールフランスとKLMの合併以来、コスト改善による競争力強化を図ってきたが、モーニングスターではローコストキャリア(LCC)といわれる、低価格のライアンエアーやイージージェットに対する価格面での競争力はないとみている。エールフランスとKLMは依然、別々の経営体制を敷いており、不要なコストの削減が課題。燃料費は大幅に下落したものの、今後は低価格競争にさらされることになりそうだ。

ANA、デルタ航空に妙味

モーニングスターではANAとデルタ航空に投資対象としての魅力が大きいとみている。羽田空港からの国際線就航でビジネス需要が今後期待できることや、国内線において日本航空の再生に伴う路線縮小の恩恵に期待できそうだ。一方、デルタ航空の収益性の改善は予想以上に進んでおりポジティブ。厳しい環境下で、過去10年間において四半期ベースの最高益となったことは評価できる。合併効果もプラスに表れており、今後のさらなる規模拡大にも思惑が広がる。エールフランス−KLMの本格的な復調は、11年に見込まれる景気回復のあとと予想され、業績拡大にはアジア圏への進出が鍵となろう。

指標面では、予想PER(ANAは市場コンセンサス、デルタ航空とエールフランス−KLMはモーニングスター予想1株利益を用いた)ではデルタ航空が最も割安な水準にある。ANAは予想PERがもっとも高くなっているが、利益成長率を用いたPEGレシオ(PERを1株当たり利益成長率で割った値)で見た場合、必ずしも割高とは言えない。トータルリターンではANA、デルタ航空が1年でプラスリターンとしっかり。2社ともに下期にかけさらなる業績回復が期待でき、上値余地は十分に残されている。(宮本裕之)

【比較表】
  ANA デルタ航空 エールフランス-KLM
市場 東京証券取引所 ニューヨーク証券取引所 ユーロ・ネクストパリ
コード 9202 DAL AF
終値 307円 10.46米ドル(878円) 10.3ユーロ(1,109円)
MSレーティング ★★★
トータル
リターン(%)※1
1年 3年 5年 1年 3年 5年 1年 3年 5年
5.9 -12.5 -3.1 12.1 -37.0 -13.4 -2.6 -28.8 -3.7
時価総額 5,876億円 6,931億円 3,331億円
前期実績売上高 1兆2,283億円 2兆3,572億円 2兆2,468億円
前期実績純利益 -573億円 -1,039億円 -1,668億円
PBR 1.2 41.5 0.5
予想PER※2 57.2 5.2 11
データは9月1日時点
1ドル=84円、1ユーロ=107円
データは各社決算資料、Morningstar Directから取得
※1 トータルリターン=配当金を再投資した累積リターン
※2 予想EPSはANAが市場コンセンサス、デルタ航空とエールフランス-KLMがモーニングスター予想を使用

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