グローバル企業比較「鉄鋼王は誰の手に 新日鉄vsアルセロール・ミッタルvsポスコ」

世界的な景気後退を受け、09年は大幅な減産を強いられた鉄鋼業界。2010年に入り生産量は急回復をみたが、景気回復の勢いが一段落したことによる需要の緩みから再び先行きの不透明感が強まっている。このなかで鉄鋼大手はどのような戦略をとるのか。日本のトップである新日本製鉄<5401.T>、世界最大手でルクセンブルクに本社を構えるアルセロール・ミッタル(MT)、そして韓国最大手のポスコ(PKX)を比較した。

不安定な鉄鋼石価格

原料となる鉄鉱石の価格は鉄鋼業界にとって重要なファクター。これまでは年間固定価格を決定する交渉だったが、近年の中国を筆頭とする新興国の需要増を受け、鉄鋼石生産会社が10年に入り、スポット価格を反映しやすい四半期の改定に切り替えた。四半期ごとの価格変動で鉄鋼各社の業績がより変動しやすくなり、鉄鋼株はしばしば次四半期の価格見通しなどのニュースに反応する傾向が強まっている。

資源大手と新日鉄など日本の鉄鋼会社との鉄鋼石の価格推移をみると、09年代は1トン=50ドル台だったが、世界的な需要回復を背景に鉄鋼石価格が大幅に値上げされ、4−6月の価格は1トン=約100−110ドル、7−9月は1トン=147ドル程度まで上昇した。だが、中国の需要減少を背景に10−12月期の鉄鋼石価格は1トン=127ドル近辺まで下落。円高も手伝い鉄鋼会社にはプラスに働く一方、景気先行き不透明感から自動車や電機メーカーの需要が落ち込めば、鉄鋼各社に対する値下げ圧力が強まる。

鉄鋼業界は再編思惑強い
【表1 2009年 世界の粗鋼生産ランキング】
順位 会社名 百万トン
1 アルセロール・ミッタル(ルクセンブルク) 77.5
2 宝鋼集団(中国) 31.3
3 ポスコ(韓国) 31.1
4 新日本製鉄(日本)※ 26.5
5 JFEスチール(日本) 25.8

※ウジミナスの生産量を含まず

【表2 2007年 世界の粗鋼生産ランキング】
順位 会社名 百万トン
1 アルセロール・ミッタル(ルクセンブルク) 116.4
2 新日本製鉄(日本) 35.7
3 JFEスチール(日本) 34
4 ポスコ(韓国) 31.1
5 宝鋼集団(中国) 28.6

出所:World Steel Association

鉄鋼業界の特徴はその企業数の多さだ。世界鉄鋼協会によれば1年間で300万トンの粗鋼を生産する会社は全世界で49社。トップは圧倒的な生産量を誇るアルセロール・ミッタルで、2位の宝鋼集団の2倍以上を生産している。(表1)ただ、アルセロール・ミッタルの世界シェアは8%程度にとどまっており、市場を完全に支配しているわけではない。同社は06年にオランダのアルセロールとインドのミッタル・スチールが経営統合して誕生した会社だが、同社の成功をみて、鉄鋼業界には再編思惑が現在もくすぶる。合併により市場シェアを拡大できる余地が残されているうえ、大手企業はグローバルで他社への出資や合弁会社を積極的に立ち上げており、今後も続きそうだ。

好調だった上期、強弱感対立する下期
【新日鉄、アルセロール・ミッタル、ポスコの株価推移】

解説:07年の9月14日を10,000とし、各銘柄のトータルリターンを比較したチャートです。

上期は景気回復が続いたことで、好調だった大手鉄鋼各社の業績だが、下期の見通しについては強弱感が対立する。

新日本製鉄<5401.T>の11年3月期第1四半期(10年4−6月)の売上高は前年同期比30.3%増、最終損益は前年同期の422億円の赤字から268億円の黒字に転換。国内ではエコカー補助金や減税による鉄鋼需要が回復した。海外では中国やインドの経済成長を背景とした鉄鋼需要の高まりがあった。

今後の見通しについて、クレディ・スイス証券は厳しい見方を出す。要因として(1)鋼材の販売価格、数量ともに計画からの下ブレ懸念が出てきたこと(2)エコカー補助金制度終了に伴う自動車販売の急減が見込まれること(3)需要の減退、原材料引き下げにより、鉄鋼各社の販売価格に下落の可能性があること(4)通期下方修正の可能性を株式市場は織り込んでいないこと――を列挙した。一方、モルガン・スタンレーMUFG証券では、中国の鉄鋼需要期にあたる10−12月期を見据え、原料市況は総じて堅調に推移すると想定。それを確認できれば利益率回復の期待が高まり株価の見直し材料になると予想している。

アルセロール・ミッタルの見通しは厳しい。10年12月期第2四半期の売上高は前年同期比42.6%増、最終損益も前年同期の7億9200万ドルの赤字(約665億円の赤字)から17億400万ドルの黒字(約146億円の黒字)に転換した。

モーニングスターでは第2四半期の業績は想定線に沿ったものだったが、第3四半期は厳しいとみている。中国での在庫調整が見込まれることや、いわゆる「ギリシャ問題」を背景とした欧州における需要減少の影響を受ける公算が大きい。中国の鉄鋼業界についてバンクオブアメリカ・メリルリンチでは、鉄鋼業が中国国内でひしめいている現状を挙げ、国内供給企業が絞り込まれ確立されるまでは、鉄鋼価格の不安定さからグローバルな製鉄業に影響を与える可能性があると指摘。もっとも、アルセロール・ミッタル自体は第3四半期の需要減少は一時的なものにとどまる可能性があり、世界需要は回復傾向をたどると想定している。

ポスコは上期2社に比べ堅調さが目立つ。10年12月期第2四半期の売上高は前年同期比25.0%増、純利益は同2.7倍と、ここ最近2年間で最も良好な決算となった。好調な韓国景気と新興国向け輸出が同社業績を後押し、特にシェア50%(前年は44%)を占める韓国では好景気の恩恵を享受した。

ポスコは10年の韓国における鉄鋼需要を前年比16%増と想定、中国向けも同8%程度上昇する前提で、通期予想売上高は前期比24%増、営業利益は同81%増となる。下期の需要は上期に比べると減少する見通しだが、その減少幅は小幅なものにとどまりそうだ。

ポスコはアジアの新興国を中心に粗鋼生産の増産計画を推進しており、インドネシアでは地元国営製鉄会社と合弁で年産600万トン規模の工場を建設中。また、地元住民の反対などにより計画に遅れが生じているものの、インドやベトナムでの工場建設プロジェクトも10年に開始する。

ポスコに投資妙味

3社の中では韓国の好調な経済を背景とした国内需要の堅調な伸びと中国を中心としたアジア新興国向けに製品売上を伸ばすポスコに投資妙味がある。増産体制が整うのは数年先となる見通しだが、新興国における積極的な増産体制の拡充を打ち出している点は好材料。

直近1年のトータルリターンはポスコが10.9%に対し、新日鉄とアルセロール・ミッタルはマイナスリターンとなっている。ただ、ポスコのPERは7倍台と、新日鉄の12倍台やアルセロール・ミッタルの11倍台と比べて割安圏にある。09年の厳しい環境下でも11.0%と高いROE(株主資本利益率)を維持した点はポジティブだ。(宮本裕之)

【比較表】
  新日鉄 アルセロール・ミッタル ポスコ(ADR)
市場 東京証券取引所 ニューヨーク証券取引所 ニューヨーク証券取引所
コード 5401 MT PKX
終値 295円 32.9米ドル(2,763円) 111.69米ドル(9,381円)
MSレーティング ★★★★ ★★★
トータル
リターン(%)※
年初来 1年 3年 年初来 1年 3年 年初来 1年 3年
-23.7 -29.2 -2.2 -16.9 -21.7 3.5 10.9 -12.4 45.3
時価総額 2兆79億円 4兆3,150億円 3兆2,719円
前期実績売上高 3兆4,877億円 5兆4,692億円 2兆5,798億円
前期実績純利益 -115億2,900万円 99億1,200万円 2,252億8,900万円
PER 11.8 7.8
PBR 1.0 0.9 1.4
ROE 0.2 11.0
データは9月13日時点
1ドル=84円
1韓国ウォン=0.07円
データは各社決算資料、Morningstar Directから取得
※トータルリターン=配当金を再投資した累積リターン

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