7&iHD vs ウォールマート vs テスコ

小売業の戦略は時代とともに変遷をたどり、今まさに大きな転換点を迎えている。主力市場でトップライン(売上高)が伸び悩む一方、新興国を中心とした海外売上高が堅調に伸長。主力市場と海外市場における、「攻守のバランス」が今後3社の重要なファクターだ。
 日本のトップを走るセブン&アイ・ホールディングス<3382.T>、世界最大のウォルマート<WMT>、英国を地盤とするテスコ<TSCO>を比較、小売大手の投資価値を見比べてみた。

守って攻める
【図1 部門別売上高比率】

7&iHD


ウォールマート


テスコ

小売業は70年代には在庫を積んで商品を大量に回転させることで収益を上げ、90年代は在庫精度向上や機会ロス改善が有効な経営戦略だった。ただ、近年は「物価低下、人口減少によりトップラインの伸びに期待できず、資産効率や経費効率の改善に軸足を置いた経営にシフトしなければならなくなった」(シティ・グローバル・マーケッツ)。

3社ともに前期の主力市場での売上高は、微増もしくはマイナスと低空飛行。主力市場の成熟化によるトップラインの伸び悩みで、国内はコストや機会損失の抑制、収益性の改善に重点を置く「守り」の経営にシフトせざる終えない状況だ。

一方、新興市場は環境が決して良好とはいえない中で、売上高は前年比プラスと堅調な推移をみせている(7&iHDの米国地域売上高は除く)。今後も海外市場で「攻め」が業績のけん引役となるのは間違いない。もっとも、現時点では3社の海外売上高比率の比較に大きな差はなく、横並びの状態だ。(図1)

「攻め」の海外展開

そんななか、新たな市場開拓が水面下で進んでいる。9月27日、ウォルマートが南アフリカ地盤の小売大手「マスマート」に買収を提案したことが明らかになった。「マスマート」はアフリカ第3位の小売大手で、食料品に強みを持つほか、ホームセンターやディスカウントストアなどを展開している。買収が成功すれば、ウォルマートのアフリカ大陸進出への道も開かれる。同大陸には経済成長に欠かせないピラミッド型の人口構成を持ち、かつ広大な国土を保有する国が多いことから、市場としての魅力は高い。

7&iHDは中国での拡大展開が期待される。クレディ・スイス証券によれば、「中国での10年2月期の総合スーパー事業(13店舗)は24億円程度の営業利益。コンビ二事業にも海外市場で利益を獲得できるポテンシャルがある」とコメント。7&iHDは10年2月期末までに北京や天津に93店舗を展開しており、11年2月期から連結業績への貢献が期待できる。足元では尖閣諸島問題など日中間の政治動向がリスクとなりうるが、現時点では日本企業の経済活動にまで影響を及ぼす可能性は低いと見られる。

テスコは欧州やアジアを中心に店舗を拡大中。モーニングスターでは、テスコが「クラブカード」の会員情報を収集し、柔軟に商品構成や店舗構成を変えることができる点を強みとして挙げている。このシステムは新興国でも導入されており、各地域の文化や習慣に合わせた店舗作りが可能。また、同社は近年グループ内のファンドや、新たな借り入れを活用し、海外展開に巨額の資本投入を行っており、東欧や中国での展開を拡大させる方針だ。

直近3社の業績比較
【図2 7&iHD、ウォールマート、テスコの株価推移】

解説:07年の9月29日を10,000とし、各銘柄のトータルリターンを比較したチャートです。

直近3社の業績動向は底堅く推移している。
 セブン&アイ・ホールディングス<3382.T>の11年2月期第1四半期(10年3−5月)売上高は前年同期比0.3%増の1兆2458億円、営業利益は同10.6%減の524億3600万円。主力のコンビニエンスストア事業の営業収益は同8.8%増だったが、スーパーストア事業、百貨店事業、フードサービス事業、金融事業、その他事業は軒並み減収。第1四半期は不安定な立ち上がりとなったものの、第2四半期は猛暑の影響などでコンビ二事業が好調に推移したとみられ、7四半期ぶりの営業増益を予想する向きが多い。

ウォルマートの11年1月期の第2四半期決算は、既存店売上高がモーニングスター予想を下回るなど、米景気の減速を反映する形となった。もっとも、同四半期の利益率は、海外展開やコスト管理努力を受けて予想を小幅に上回った。ウォルマートは規模などの優位性とエブリディ・ロープライス(毎日低価格)戦略により、今後もあらゆる事業環境に対応していくとモーニングスターでは想定。また、海外事業ではメキシコ、中国、ブラジルなど一部の高成長市場で好調を維持しており、海外部門は重要な投資判断材料になりつつあるとコメントしている。

テスコの第1四半期(10年3−5月)の売上高は前年同期比8.2%増と好調に推移した。海外売上高もアジアの好調などで、同11.9%増と2ケタの増収。主力市場の英国で事業が堅調に推移したほか、景気回復がみられた中国での事業が好調だった。

投資価値はウォルマート、テスコに軍配

モーニングスターではウォルマート、テスコに投資価値があるとみている。
 3社の投下資本利益率(ROIC)を比べるとウォルマート、テスコが投資対象として優位性を持つ。投下資本利益率とは企業の投下資本に対し、どの程度の利益を上げられたかを示す経営効率の指標。数値が高ければ、高いほど効率的な経営を行っていることになる。効率的な経営が求められる現代の小売業界では、ROICは重要な投資判断のためのファクター。7&iHDの2%に対し、ウォルマートは13%台、テスコは16%台と高い。前期実績PERで比較した場合でもウォルマート、テスコに比べ、7&iHDは割高感がある。日本ではトップを走る7&iHDも、大手海外2社と比較した場合は経営の効率化や収益面で改善の余地が大きいといえる。(宮本裕之)

【比較表】
  7&iHD ウォールマート テスコ
市場 東京証券取引所 ニューヨーク証券取引所 ロンドン証券取引所
コード 3382 WMT TSCO
終値 1,969円 53.48米ドル(4,492円) 4.32英ポンド(574円)
MSレーティング ★★★★
※トータル
リターン(%)
1年 3年 5年 1年 3年 5年 1年 3年 5年
-13.4 -13.0 -1.2 0.9 6.9 4.0 11.7 1.4 7.2
時価総額 1兆7,789億円 16兆3,365億円 4兆5,910億円
前期実績売上高 4兆5,498億円 34兆2,899億円 7兆5,690億円
前期実績純利益 448億円 1兆2,041億円 3,094億円
PER 39.7 13.2 14.8
PBR 1.0 3.0 2.4
ROE 2.6 21.1 16.9
データは9月28日時点
1ドル=84円、1英ポンド=133円
データは各社決算資料、Morningstar Directから取得
※トータルリターン=配当金を再投資した累積リターン

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