株価トレンドは内閣の「通知表」、リンクする支持率と日本株

米国では11月2日に中間選挙が行われる。オバマ大統領の支持率が低下し民主党の苦戦が予想されるが、「中間選挙後から大統領選の前年にかけて米国株は上がる」とのアノマリー(理論的に説明のつかない動き)もあり、選挙後の相場に注目が集まっている。

一方、国内に目を転じると、菅改造内閣の発足から1カ月が経過。「最小不幸社会」の実現をマニフェストに掲げて誕生した菅内閣だったが、尖閣諸島問題の発生や、折からの円急騰などにかき回され、強いリーダーシップを発揮するまでには至っていない。ただ、市民活動家出身の「たたき上げ」、かつ鳩山前総理のように自民党経験のない菅氏には、新しい民主党の顔として期待を寄せる向きも少なくない。

しかし、株式マーケットの評価はシビアだ。第1次菅内閣発足(10年6月8日)直後の日経平均株価(終値、以下同じ)は9537円でスタート。6月21日には1万238円の高値を付けたが、その後はジリジリと下げ、8月には8000円台に突入した。6年半ぶりの為替介入(9月15日)時には、日経平均株価が前日比217円高の9516円と反発するなどマーケットも政府・日銀の為替対策を好感したものの、足元では9000円台半ばで一進一退の攻防が続く。

 日本株も目先は米中間選挙後や11月のFOMC(米連邦公開市場委員会)をにらんだ動きに入りつつあるが、ここで日本の政治を参考に、政治がマーケットに与える影響について改めて考えてみたい。

新政権への淡い期待

新政権が発足すると、ニューフェースへの期待から株価が上昇することが多い。米国では「100−day honeymoon (100日のハネムーン)」と称し、マスコミが就任後間もない新大統領への批判を手控える期間がある。菅内閣を含め過去20年間の歴代内閣(第1次、短命内閣だった宇野内閣、羽田内閣を除く)発足初日の日経平均株価の動きをみると、13の内閣中8つの内閣で、新政権の誕生を歓迎する上昇がみられた。

なかでも、安倍元首相の退陣後、ほぼ1年ごとに入れ替わってきた福田、麻生、鳩山、菅内閣の4内閣では、連続して発足時の株価が上昇している(前日比平均で0.3%高)。猫の眼のように首相が交替し、その都度内閣が入れ替わっていく状況のなかで、新しいリーダーに対して「次こそは」という淡い期待が生まれる。そうしたセンチメントの改善が、一時的にせよ株価を持ち上げるのだろう。

とりわけ、外国人投資家は日本の政局に敏感だ。売買主体別で6割超を占める彼らは、政治の混乱による経済の停滞を嫌うし、新政権の誕生に際しては打ち出される経済政策を吟味する。菅氏と小沢一郎氏との一騎打ちとなった9月の民主党代表選でも、積極財政派とみられた小沢氏、消費税増税などで財政再建を目指すとした菅氏、両者の政策が景気にどのようなインパクトを与えるのかが注目点となった。

内閣支持率は、調査主体や設問によって結果にバラつきが出るものの、いまや民意をうかがううえで欠かせない。この内閣支持率と株価の関係を調べると、面白い結果がみえてくる。過去20年間の歴代内閣(宇野、羽田内閣を除く)を調べると、退陣直前の支持率が発足直後の支持率(朝日新聞の世論調査より、以下同じ)を下回った10内閣中8内閣では、日経平均株価も同様に発足時を下回って終わっている。例外は、小泉内閣と安倍内閣の2つの内閣だった。

「冷めたピザ」とマーケットの加熱

【内閣支持率と日経平均株価】

内閣支持率   日経平均株価
内閣 発足直後 退陣直前 変動幅 平均支持率   発足直後 退陣直前 変動率
海部 39% 50% 11% 46.8% 34719 25044 -27.9
宮沢 54% 26% -28% 32.8% 24950 20357 -18.4
細川 71% 57% -14% 67.5% 20493 19729 -3.7
村山 35% 33% -2% 37.2% 20643 20612 -0.2
橋本 61% 26% -35% 42.7% 20377 16158 -20.7
小渕 32% 36% 4% 36.6% 16201 20594 27.1
41% 9% -32% 22.2% 20462 13827 -32.4
小泉 78% 47% -31% 49.7% 13973 15633 11.9
安倍 63% 33% -30% 38.4% 15557 16401 5.4
福田 53% 25% -28% 32.0% 16435 12090 -26.4
麻生 48% 14% -34% 32.3% 12115 10217 -15.7
鳩山 71% 17% -54% 41.9% 10270 9520 -7.3
60% 51.0% 9537

(朝日新聞実施の世論調査より ※短命内閣だった宇野内閣と羽田内閣を除く)

さらにいくつかの例がある。98年7月に誕生した小渕内閣は、小渕首相当人が当初「冷めたピザ」と酷評され、支持率も32%という異例の低さでスタート。支持率は内閣発足後間もなく20%台にまで落ち込んだ一方、山一証券の破たん(97年)や日本長期信用銀行の経営危機などを背景に株価も低迷。就任直後1万6201円だった日経平均株価は、98年10月には1万2948円と当時のバブル後最安値を更新した。

しかし、小渕内閣は、金融危機への対応から金融再生関連法を成立させたほか、総額27兆円にのぼる緊急経済対策を実施する。景気対策が評価されたことで、その後支持率は回復し始め、99年9月には51%にまで上昇した。一方、日経平均株価も98年10月を底に徐々に値を戻し、99年9月に1万7000円を突破。内閣総辞職直前の2000年3月には、2万円の大台に乗せた。

もう一つの好例は、小泉政権下での衆議院選挙だろう。「郵政解散」と呼ばれたこの選挙では、衆議院解散当日(05年8月8日)の株価が1万1778円。自民与党が大勝した9月11日(日)の翌日には1万2896円となり、その後の安倍内閣において2007年2月に1万8215円の高値を付けるまで長期の上昇トレンドが持続。50%以上の上げ幅を記録する怒とうの上げ相場となった。

当時は、郵政民営化に代表される規制緩和、「官から民」への構造改革に対する強い期待感が外国人投資家をはじめとした多くの買いを呼び込んだようだ。一方、小泉内閣の支持率も、05年9月に55%と前回8月から9%上昇し、06年9月の退陣まで平均49.7%という高水準を維持し続けた。

株価低迷とともに退陣した宮沢内閣

逆パターンの例もある。91年11月発足の宮沢内閣は支持率54%、対する日経平均株価は2万4950円で始まった。「経済通」とされた宮沢首相だったが、国民人気はいまひとつ盛り上がらないまま、政権誕生1年後の12月には支持率が20%まで急減。内閣不信任案の可決とともに退陣を余儀なくされた。一方で、日経平均株価も発足時を天井に下落を開始し、92年8月には1万4309円まで下落。その後は2万円台まで持ち直したものの、内閣発足時の水準には戻らなかった。

もう一つは麻生政権下の株価だ。麻生政権の場合、相次いで政権を中途放棄した自民党への批判が高まっていたところに、08年9月の政権発足とほぼ同時にリーマン・ショックが発生。世界的な不況の嵐に巻き込まれるという不運が重なった。内閣支持率は発足直後の48%をピークに下落傾向をたどっていく。一方の日経平均株価も、発足当日の1万2115円をピークに下げ続け、09年3月にはバブル崩壊後の最安値7054円(日次、終値)を記録。ただ、株価がその後持ち直し09年7月に1万円台を回復したのに対して、内閣支持率は10%台という危機的水準に突入したまま、ついに回復することはなかった。

「景況感」が支持率を左右

内閣支持率は無作為に選んだ人々を調査対象としており、株式市場に参加する投資家の見方とは必ずしも一致しない。また、日本の株式市場は海外市況に影響されるほか、為替相場のインパクトも大きい。それにもかかわらず、内閣支持率と株価動向に一定の関係がみられるのには、「景況感」が影響している。内閣支持の理由を大別すると、「他の内閣よりよさそうだから」や「支持する政党の内閣だから」、「政策に期待ができるから」などが挙げられることが多い。

しかし、こうした理由以外に、景気の良し悪しも支持率の高低を左右していると考えられる。景気悪化によって賃金水準の低下や雇用の悪化が起これば、当然、政府の経済政策に対する失望感が高まる。逆に、景気が回復して生活実感が改善すれば、ポジティブな景況感の広がりとともに政府への信頼感や期待感も高まっていくだろう。「景気の鏡」と言われるように、株価は景気動向と密接にリンクしている。内閣支持率と株価の動きに関係があるのは、景気動向が景況感を生じ、景況感が支持率を左右するから、と言うことができそうだ。

菅内閣の最新の支持率は、45%。尖閣問題での対応で批判を浴び、前回調査の59%から一気に14%下がったものの、一定の水準を保っている。しかし、世論の風向きは変わりやすい。10月の月例経済報告では景気の基調判断が20カ月ぶりに下方修正され、足元の景気動向には暗雲が漂い始めた。日経平均株価も、10月21日の終値で9376円と内閣発足当初(9537円)から1.7%下落。

民主党代表の任期は2年間とされており、途中で不測の事態が起こらない限り菅内閣は2012年9月まで続く久々の長期政権になる―との声も聞かれるが、高支持率を維持したまま景気と株価を本格的な回復軌道に乗せられるかどうか、その手腕が試される。
(白石 和弘)

【政局と日経平均株価】

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