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特集 『敗者のゲーム』著者チャールズ・エリス氏インタビュー、「誰もが勝者になれる投資とは?」特集 『敗者のゲーム』著者チャールズ・エリス氏インタビュー、「誰もが勝者になれる投資とは?」

 世界中で読み継がれている代表的な投資指南書『敗者のゲーム』の著者であるチャールズ・エリス氏がこのほど来日した。同書は1985年の初版以来、世界で50万部を超えるベストセラーとして知られる。今年2月には、08年の金融危機を踏まえた日本語による改訂版が出版されて話題を呼び、今回の来日も高い関心を集めた。モーニングスターの朝倉智也代表がエリス氏にインタビューし、個人投資家にとって『敗者のゲーム』が意味するものやインデックス投資の優位性、欧州債務危機がマーケットを揺るがす現状における投資家の心構えなどを聞いた。

資産運用は成功者のいない「敗者のゲーム」、手数料が決定的要因に

――ロングセラーの『敗者のゲーム』だが、読まれていない方のために敗者のゲームとはどのような意味なのかを改めて教えていただきたい。

「運用の世界に関して言えば、第一に市場のベンチマークを上回ろうとしていくつかのミスをおかしてしまう人がいるということだ。ミスをするかしないかによって、非常に良い結果になるか、悪い結果になるか、市場平均を上回るか下回るかが決まる」

「もう1つはコストだ。平均的な資産運用者は、コストを考えるとベンチマークを下回ってしまう。市場が厳しい環境にあり、運用担当者が常に勝ち続けるのが難しいなかではフィー(手数料)が安いことが決定的な要因として浮上してくる」

「私は50年間にわたり資産運用の世界を見てきたので、卓越した能力を持つ運用担当者がいるのを知っている。しかし、極めて良い運用成績を長期間上げ続けるファンドマネジャーはほとんど存在しない。まれに一部の金融機関において成功する運用者を見つけられるかもしれないが、それを事前に予測するのはほぼ不可能だ」

市場平均を上回るのではなく、自分にとって正しい投資をする

――敗者のゲームにおいて、個人投資家が勝つ方法はあるのか。

「非常に幸運である場合を除いて敗者のゲームに勝つ方法は存在しない。市場平均を上回ろうとするのではなく、市場を受け入れようとする姿勢が重要だ。運用の結果にかかわらず、自分や家族にとって何が一番大事なのかを中心に考えて投資することができれば、誰もが勝者になれる。市場ではなく、投資家自身の目標をしっかり見定めて投資することが大切だ」

「例えば私が1年後に家を買おうと思い、そのための資金を得るために投資するとしよう。その場合はかなり安全な投資先を選ぶ必要がある。一方、私には4歳になる双子の孫がいるが、この子達が将来のために投資する場合、85歳ぐらいまで生きるとすれば現時点では100%を株に投資するのが正しい選択となろう。こうした基準で判断すれば、いずれのケースでも投資家として勝利を収めることができる」

――投資家一人一人が異なるという前提に立って、投資の基本方針を定めるのが大事ということか。

「その通りだ。保有している資金額や所得の水準、年齢、リスク許容度、投資の知識ななどは人それぞれだ。違いを受け入れてあくまでも自分にとって正しい投資をすれば、すべての人が勝者になれる。逆に、市場平均を上回ろうとする場合、2つの点でミスをおかすだろう。まず、長期にわたって市場平均を上回ることはできない。さらに、市場に勝とうとすることで自分にとって本当に必要な投資は何なのかを見極めるチャンスを逃してしまう」

――そのような2つのミスをしないように気を付けるのは重要だが、実行するのは難しいと思われる。投資家は自分だけで責任を持つべきなのか、またはアドバイザーから助言を受けるのも必要と考えるか。

「アドバイザーは有益であり、ぜひ活用すべきだ。ただ、医師や弁護士と同様にその人達に答えを見つけてもらうのではなく、自分の目標を達成するのに良い手助けをしてくれる存在と考えたい。市場がどのような動きをしているかについて助言を受け、目標に到達するにはどうするべきかを検討すればよい。アドバイザーはレストランのウェイターのようなものだ。メニューについてのアドバイスはするが、何をどのくらい食べたいかは自分自身で決めなければならない」

短期的な視点で考え、感情的になれば「長期的損失」に

チャールズ・エリス氏

『敗者のゲーム』著者
元バンガード・グループ 社外取締役
チャールズ・エリス氏

――投資家は現在、厳しいマーケット環境に直面している。3年前にリーマン・ショックがあり、あのような危機はしばらくないと思われていたが、今回、欧州のソブリン危機が起こった。投資家はかなり影響を受けているとみるが、現在のような運用環境においても、自分の投資方針をしっかり決めるのが重要であるという点に変わりはないか。

「これは本当に複雑な質問だ。投資家が今後どのくらいの時間を持っているかによって答えは変わる。私の4歳の孫はリーマン・ショックがあったのも知らず、気にもしないだろう。これから80年、90年生きる若い人達には現在起こっていることは関係がない」

「一方、今80代の人にとってリーマン・ショックは大きなストレスになったと思われる。現実に合わせて運用方法を調整する必要があるだろう。ただ、現実というのは『市場』ではなく、あくまでも資産運用に関する『自分の現在の立場』だ。必ず金融市場においては30年から50年くらいの周期で深刻な危機が起こるのは分かっているため、そのような危機に備えなければならない」

「人間は短期的な視点で物事を考え、感情的になる傾向がある。自分自身が最大の敵であることを覚えておく必要がある。長期的な視点を見失ってはいけない。例えば、株式相場がどんどん悪くなり、人々は焦って相場の底で売り、短期的な損失を長期的な損失にしてしまう。逆に投資家は相場がどんどん上がっているときに買いたくなり、一番株価が高いときに買う場合が多いが、これもまた長期的な問題を抱える結果となる。自分の性格を理解し、行動や心理をコントロールすることが求められる。著名投資家のウォーレン・バフェット氏も、『投資はシンプルだが、簡単ではない』と言っている」

インデックス投資が一番賢明、退屈でも安全な方がよい

朝倉智也

モーニングスター 代表取締役COO
朝倉智也

――指数に連動するインデックス投資とベンチマークを上回ろうとするアクティブ投資のどちらが優れているかという議論は神学論争のようになっているが、なぜエリスさんはインデックス投資が有効であると考えているのか。

「運用に関わる私の知識を集約して明らかとなったのは、市場では有能な専門家や運用担当者、投資家がすべて集まってプライス(価格)を作り出しており、これらのプライスを結集したものがインデックスということだ。こうした市場のプライスは信頼に足りるものであり、非常に分かりやすい。インデックス投資はコストが低いにもかかわらず、価値の高い投資法であり、時間とコストの節約にもなる。インデックス投資にマイナス面はほとんどない。エキサイティングな投資でないのは確かだが、飛行機に乗る際に興奮するような飛行を望まないのと同じように、退屈でも安全な方がよい」

――インデックス投資の優位性についてはよく理解できたが、実際にはアクティブ投資のファンドの方が残高は多い。しかし、人気があるからパフォーマンスが良いわけではないと思うが、どう考えるか。

「資産運用業界では、インデックス投資以外のすべてに関して相当多くの宣伝広告を行う。このようなファンドのパフォーマンスを見ると、上がっているものもあるが、大半はさえない成績で、なかには下がっているファンドも数多く存在する。平均するとアクティブファンドは投資家を失望させる結果となっている」

「一方、インデックス投資について言えるのは、投資家の数が着実に増えているということだ。さらに、すでにインデックス投資を始めている人がインデックスファンドの保有割合を増やしている。過去25年間の主要な国における状況を見ると、インデックス投資は年々普及している。インデックス投資が一番賢明な投資であることから、今後も増えて行くだろう」

――インデックス投資と言えば、インデックスファンド運用最大手のバンガードが有名だ。エリスさんもバンガードの取締役を務められた期間があったが、バンガードの特徴や優位性、他社との違いについて聞きたい。

「バンガードには大きな強みがある。まず、会社の構造として(株主ではなく)投資家が所有する構成になっている。手数料の水準は業界で最も低いレベルだ。また、長期にわたりインデックス投資に携わっている経験もある。実際に運用する人々は才能が豊かで、専門性が高く、長い間フルタイムでインデックス投資の仕事をしている。こうした特徴を考えるとバンガードに類した運用機関を想像することはできない」

日本の投資家は世界に目を向けよ

――日本の金融マーケットは失われた10年どころか20年近く低迷しており、さらに今年は震災の影響もあって投資家は意気消沈している。最後に、日本の投資家に元気が出るようなメッセージをお願いしたい。

「2つのメッセージがある。私は過去50年の間にしばしば日本を訪れ、日本に多くの友人がいる。日本人は働き者で良い仕事をするので、将来は必ず明るいものになると信じている。明るい将来は投資の良い結果にも結びつくはずだ」

「もう1つのメッセージとして、日本の投資家には世界に目を向けて欲しいと言いたい。どこの国でも同じだが、自分の国だけに投資をするのは今やとても不合理だ。世界には様々な国や企業、人々、業界があって、多様な投資機会が存在する。世界全般にわたって投資をすることが重要だ。実際に私もそうした投資を行っている」

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