本当の意味での「貯蓄から投資へ」の動きを、個人投資家の視点で支援。

少額投資非課税制度の日本版ISA「NISA(ニーサ)」が2014年1月からスタートした。これに対し「NISAはあくまでも資産運用の手段の一つ。ただし、本当の意味での『貯蓄から投資へ』という機運が高まりつつある」と話すのは、投資信託(ファンド)の評価機関・モーニングスターの朝倉智也社長だ。それはどういう意味なのか。また、課題があるとすればどのような点なのか。投資家や販売会社、運用会社に求められる考え方や行動なども含めて聞いた。

投資で大切なのは銘柄選択ではなく投資の目的、目標を定めること

代表取締役社長 朝倉智也

 日本証券業協会は1月15日、今年からスタートした少額投資非課税制度「NISA」の口座数が約500万件に達したと発表した。

 モーニングスターの朝倉智也社長は「個人投資家の関心が高まっていることはよいことです。ただし、『NISA』はあくまでも目的ではなく手段です。資産運用全体の中でどう使っていくかということが大切です」と話す。

 日本の家計の金融資産は1,600兆円とも言われる。さらに、そのうち半分以上の約856兆円が預貯金とされる。米国では約6割の資産が株式、債券、ファンド、401k(確定拠出年金)に投資されているというのとは大きな違いがある。

 その理由について朝倉社長は、「デフレの時代には、預貯金に置いておくだけで価値が上がりました。このため、リスクを取って投資をする必要がなかったのです。国がいくらかけ声をかけても、市場は広がりませんでした。しかし、インフレになると、このままでは預貯金の価値が目減りすることになります。ある程度はリスクを取って投資をしなければならなくなるでしょう。本当の意味での『貯蓄から投資へ』の時代が始まります」と説明する。

 たとえば、アベノミクスによるインフレ目標が2%の場合、個人投資家にとってはそれ以上の利回りが目標になるわけだ。

 「ただし、すでにリタイアしているような人であれば、3%程度の利回りで安定運用すれば十分かもしれません。つまり、投資で大切なのは、どの銘柄を買うかということではなく、何のために投資をするのか、そのために目標をどこに置くかという点です」

 便利なツールもある、モーニングスターが公式ホームページで提供している「金融電卓」だ。このツールを使えば、目標とする資産を得るためには、どれほど利回りが必要かといったことや、手元にある資産を取り崩していった場合、どの位の期間持つかといったことが簡単に計算できる。

販売会社は、投資家のポートフォリオ構築を支援すべき

朝倉氏の講演はテーマが多様で、どれも興味深い。最近出版した書籍も好評だ。

 「まず目標を決めて、そのために必要な利回りを決め、その後に分散投資のためのポートフォリオをつくることです。大切なのは最初にファンドの銘柄選びをしないことです。」と、朝倉社長はアドバイスする。

 朝倉社長によれば、運用の成果を左右する要因のうち、約8割は資産配分で決まるという。

 「本来は、証券会社や銀行などの販売会社も、個人投資家一人ひとりに最適なポートフォリオの提案をすべきですが、残念ながら、まだそこまで至っていません。特定のファンドを単品で勧めるケースがほとんどです」

 その要因として、ファンドの販売におけるビジネス構造の課題があるという。販売会社にとっては、収益の源泉は、販売手数料や信託報酬である。いきおい、手数料が高い商品を勧めることになりがちだ。手数料の低い上場投資信託(ETF)やインデックスファンドに比べてアクティブ運用のファンドのほうが売れる理由はそこにある。個人投資家も、新しく販売されたファンドや目新しいテーマのファンドに飛びつきがちだ。

「米国では運用資産残高に応じた運用管理フィーなどを得て、ポートフォリオを提案するアドバイザーがいます。日本の販売会社も、このようなスタイルでビジネスができるのではないかと考えています」

 資産残高を増やすためには、運用のパフォーマンスを上げる必要がある。コストの高いファンドを減らして、インデックスファンドやETFを組み入れるという判断があってもいいわけだ。

「このような提案を通じて、販売会社と投資家との、文字どおりの『WIN - WIN』の関係が実現するはずです」(朝倉社長)。

日本の運用会社には特色ある運用とさらなる情報開示に期待

今年で15回目を迎えた「ファンド オブ ザ イヤー」。今回は新たに新設した「ファンド オブ ザ ディケード」とあわせて33本のファンドが受賞した

 朝倉社長は、日本のファンド運用会社の課題についても指摘する。

 「米国の運用会社の多くは、アクティブ運用が得意な会社、インデックスファンドが得意な会社など、それぞれ特徴があります。日本の運用会社はデパートメント型という会社が多く、何でもやるというところが多いのです」

 米国では、運用会社の財務内容や運用体制のみならず、ファンドマネージャーの経歴や実績などの情報も開示されているという。後者においては、ファンドマネージャーが自分の運用するファンドにどれだけ自己資金を投資しているかといったことまで明らかにされているというから念が入っている。

 「米国ではこれらの情報開示が法で義務づけられています。日本では法的な開示要件ではないが、各運用会社が差別化のために、運用の方針を明確に出していくような取り組みを進めてもいいのではないでしょうか」

 モーニングスターでは、投資家への情報提供のためにも、優れた運用実績とマネジメントを持つファンドを選考する「ファンド オブ ザ イヤー」を発表している。この1月 28日には「ファンド オブ ザ イヤー 2013」が発表された。今年から、10年以上の長期間にわたりすぐれた運用実績を有するファンドを対象とする「ファンド オブ ザ ディケード」の表彰も始まった。知名度はなくても着実に実績を重ねている特徴あるファンドや運用会社にスポットを当てると言う点では意義深い。

 「投資家向けセミナーの開催やインターネットでの情報提供のほか、販売会社向けツールの開発なども積極的に行っています。これからも、『投資家主権の確立』につながる取り組みを愚直に続けていきます」と朝倉社長は力を込める。本当の意味での「貯蓄から投資へ」の時代の到来に向け、同社の行動にさらに期待が高まる。


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