モーニングスターETFカンファレンス2016採録モーニングスターETFカンファレンス2016採録

基調講演

進化するETF市場とポートフォリオ戦略

  • モーニングスター株式会社
    代表取締役社長 
    朝倉 智也

リスク資産が買われやすいが「灰色のサイ」に注意

 2017年を振り返ると、日経平均株価が26年ぶり新高値、16連騰など、株式が好調だった。日本のみならず、米国、欧州、新興国の株価も上昇した。このような1年を「グレートモデレーション(大いなる安定)」という言い方をする人もいる。緩やかな経済成長が続く中、インフレ率が抑えられているため、株式などのリスク資産が買われやすい。

 耐性力が強くなっている。何があっても上がった。たとえば、2015年のチャイナショック、昨年のBREXIT(英国のEU離脱)などで、株価は大きく下落してきた。これは、日米ともにそうだった。ところが、今年は北朝鮮が何度がミサイルを打ち上げ、11月のICBM(大陸間弾道ミサイル)実験は、これまでにない危機につながる恐れがあるのに、株価はそれほど反応しなかった。それほど、強い相場になっている。

 この背景になっているのが、リーマンショック後の中央銀行の量的緩和の実施だ。米国は3回にわたって量的緩和を実施し、日本も欧州も量的緩和で続いた。2008年当時の日米欧の中央銀行の資産合計額は、現在までに3.8倍に拡大している。これだけの量のお金が市場に流れてきたことになる。

 ただ、これまでの量的緩和の流れは変わり始めている。米国は10月から保有資産を月額100億ドルペースで減額し始めた。欧州も来年1月から債券の買い入れ額を600億ユーロから300億ユーロに縮小するとしている。このような量的緩和の縮小は、13年5月のバーナンキショックの時には、量的緩和の縮小(テーパリング)と発言しただけで市場が動揺したが、現在は、実際に縮小に動いても株価が値上がりしている。状況は大きく変わっているといえる。

 日本だけは、量的緩和の縮小ということを言っていないが、実際のところは年間80兆円購入すると言っている国債を、これまでのところ40−50兆円くらいしか購入しておらず、実質的な量的緩和の縮小に動いているのではないかといわれている。市場では、これを「ステルス・テーパリング」などといっているが、黒田総裁が講演で「リバースレート」というような、金融緩和の逆効果について話すなど、世界的に量的緩和に対するスタンスが変わってきていることがわかる。

対談用写真

モーニングスター株式会社
代表取締役社長

朝倉 智也

 市場関係者は「Black Swan(黒い白鳥)」に警戒している。リーマンショックのように、突然舞い降りてきて破壊的なショックを与える出来事が起こることがある。これに対して、「Gray Rhino(灰色のサイ)」という言葉がある。2013年頃から使われ出した言葉で、中国の債務問題、北朝鮮問題、ロシア疑惑、中東問題など、いろいろな危機が、そこかしこにある状態をさす。おとなしいサイのようなもので、普段は気にならないが、ひとたび暴れ出すと大変なことになるということだ。

 現在の市場でも、局地的にはバリエーションが高くなっている株式がある。緩やかに上昇している株式市場だが、コーシャス(用心深い、慎重)に考えていきたい。ETFは、分散投資の手段として使い勝手が良い。コストは低く、コアでもサテライトでも使える様々なETFがある。「灰色のサイ」の時代には、分散が必要だ。ETFも使った分散投資を行いたい。

図表1:Black Swan か Gray Rhinoか?

図表1:Black Swan か Gray Rhinoか?

資産運用は「アクティブ」から「パッシブ」

 リーマンショック以降、資産運用で「アクティブ」から「パッシブ」への動きが続いている。米国籍の株式投信の資金流出入額の推移をみると、アクティブファンドから資金流出が続き、パッシブのインデックスファンドへの資金流入が加速している。1976年にバンガード社がインデックスファンドを発表した際には、「ボーグルの愚行」といわれ、「いったい誰が、市場平均に連動するインデックスファンドを買うのか」と嘲笑されたものだが、今では状況が様変わりしている。

 パッシブ運用のETFの特徴は、その運用コスト(信託報酬)の低さにある。国内の株式アクティブファンドの平均信託報酬は税込1.55%だが、TOPIX連動型のインデックスファンドの平均は0.57%になっている。最近、信託報酬の引き下げ競争があり、もっとも安いものは0.17%になっている。これに対し、ETFは0.09%081と一段と低い。もっとも安いものは0.06%で、アクティブファンドと比較すると1.5%程度の差がある。

 年1.5%の利回りを確保することは大変難しい。機関投資家は日本の国債利回りはゼロ%近辺なので、2.4%程度の利回りのある米国債に投資をしているが、為替ヘッジのコストが2.0%程度かかってしまうので、実質0.4%程度しか得られないということになる。

 インデックスかアクティブかという議論があるが、国内株式のアクティブファンドでインデックスであるTOPIXのパフォーマンスを上回ったファンドの割合を見ると、過去10年間で半数以上のアクティブファンドがTOPIXを上回ったのは3回だけしかない。米国籍のアクティブファンドでインデックスを上回ったのは過去10年間で24.8%。欧州籍のファンドでは1%〜3%程度しかない。アクティブファンドへの見方が厳しくなっている。パフォーマンスが変わらないのであれば、インデックスを買った方が良いと判断する人が増えている。

図表2:国内株式インデックス(TOPIX)の
パフォーマンスを上回ったアクティブファンドの割合

図表2:この文章はダミーです。

※ 国内公募追加型株式投信(確定拠出年金及びファンドラップ専用ファンド含む)
※ 2016年12月末時点でモーニングスターカテゴリー「大型グロース」、「大型ブレンド」、「大型バリュー」に属するアクティブファンド
※ ベンチマークは「TOPIX(配当込み)」

多様化が進むことで一段と拡大するETF市場

 ETFはすさまじく成長している。米国のETF市場は現在370兆円の規模に拡大したが、国内ETF市場も毎年2ケタ成長が続いている。ETFが伸びている理由は、コストが低いということだけではなく、金融庁がフィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)を金融機関に求める中で、ETFの活用を働きかけているという側面もある。

 ETFを選択するポイントは、いくつかある。まず、「コスト」は低い方が良い。「純資産残高」「出来高」は、ある程度の規模が欲しい。「かい離率」は低い方が良いが、出来高が多く、純資産残高が大きければ、かい離率はほとんどない。モーニングスターのウェブサイトでは、海外のETFも含めてETFの情報を公開している。定量評価情報も掲載しているので、投資の参考に使っていただきたい。

 世界のETF運用会社の上位5社は、トップの「iShares」を運用するブラックロック、バンガード、「スパイダー」のステート・ストリートが続き、野村アセットマネジメントが第5位になっている。アクティブファームとして著名なゴールドマンサックスやJPモルガンなどの運用会社も続々とETFに参入してきているので、今後、ETFの多様化は一層進んでいく方向だ。

 今後のETFとしては、「ESG(環境・社会・ガバナンス)」、「米国債券」「海外債券」など債券ものなどが計画されている。債券のETFというのは、新しい潮流だ。

 米国の投資家がETFを購入する理由は、フィナンシャル・アドバイザーからの助言を受けてというのが多く、低コストでコアにもサテライトでも使える商品としてETFが使われている。サテライトで使う場合は、比較的機動的に動かすことがあるため、市場で売買が可能なETFの利便性が高い。

図表3:運用会社が考える今後のETFの資産クラス

図表3:運用会社が考える今後のETFの資産クラス

※ 出所:Cerulli Associates

具体的なポートフォリオの構築は目標に応じた分散で

 具体的なETFの活用の仕方としては、目標を決めて、その目標を達成するための運用利回りを設け、その運用利回りに必要な期待利回りでポートフォリオを考えるという方法がある。例えば、年率3%程度の運用利回りであれば、債券を中心にしたポートフォリオが考えられる。年6%を超える利回りを実現したい場合は、株式を中心に配分した積極運用のポートフォリオを考えたい。

 コアのETFとしては、国内株式に投資する「野村 TOPIX上場」や「MAXIS トピックス」など。グローバル株式に投資する「バンガード・トータル・ワールド・ストックETF」(VT)なども良く利用される。サテライトには、中小型株やコモディテティ、ハイイールド債券などのETFがある。

 来年1月からはじまる「つみたてNISA」や「NISA」、「iDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)」など、様々な税制優遇口座ができてきた。どの資産をどの口座に組み入れるかという「アセット・ロケーション」を考えることも重要だ。NISA口座ではETFを中心にインデックス運用をし、iDeCoではアクティブも加えたポートフォリオ。そして、一般(特定)口座では、ETFやアクティブファンドを上手にバランスさせるなど、それぞれの口座の特性を踏まえた商品の活用を考えたい。

 来年も経済が緩やかに成長し、インフレがコントロールされた良い環境が続くことが期待される。ただ、「灰色のサイ」がそこかしこに潜んでいることを忘れてはならないと思う。十分に分散したポートフォリオで臨んでいただきたい。

図表4:アセット・アロケーションからアセット・ロケーションへ

図表4:アセット・アロケーションからアセット・ロケーションへ

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