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特別講演2

リーマン・ショック後10年、これからの資産運用を考える

  • モーニングスター株式会社
    代表取締役社長 
    朝倉 智也

リーマン・ショックから10年で、日経平均株価は85%値上がりした

 9月15日でリーマン・ショックから10年を迎える。リーマンブラザーズが70兆円の負債を抱えて倒産したリーマン・ショックの当時を振り返ると、リーマン・ショック直前の日経平均株価は1万2,210円だった。現在は2万2,600円なので85%値上がりしている。日経平均株価は08年10月28日に6,994円なので、その時点からだと日経平均は3.2倍になっている。

 過去10年間、日経平均株価に投資していれば、資産を85%増やしていたことになる。安値で投資ができていれば、3.2倍だ。この10年間に、いろんな試行錯誤をし、様々な銘柄やファンドに投資をしてきたと思う。その結果、日経平均の上昇率85%と比較してどうであっただろうか? この10年間は、欧州債務危機やチャイナショックなどの様々な山谷があった。そこで、どのような投資行動をしたのかを思い起こしていただきたい。

 これからの10年でも同じことが起こると思う。順調な右肩上がりの相場になることはないだろう。今後も、ショックはあるだろう。過去10年を振り返っても、これまでの投資行動は変更できないが、これまでの運用を変えることによって違った景色は見えてくるだろうか?

量的緩和によって支えた株価は、緩和の終了でどう動く?

 リーマン・ショック後の10年は、米日欧の量的金融緩和の時代だった。08年9月15日にリーマン・ショックがあり、米国はすぐにQEといわれる量的緩和を始めた。米国は住宅マーケットが大きいので、住宅の債券を支えたいという意向が強く出た。

 日本は、2012年末に安倍内閣が成立すると、13年4月に黒田バズーカを撃って、14年10月に第2弾のバズーカで国債の年間80兆円購入など量的緩和を拡大し、2016年1月にはマイナス金利を導入した。今年になって7月31日にフォワードガイダンスを導入して、長期金利が0.2%以上に行ったら、国債を買い増しするとした。実際に年間80兆円の国債購入といいながら、実際には40兆円程度しか購入していない。テーパリングといわれる量的緩和の縮小策を実質的には実行しているようだ。

対談用写真

モーニングスター株式会社
代表取締役社長

朝倉 智也

 欧州は今年末までに量的緩和を終了すると言っている。

 米欧ともに量的緩和が終わる。460兆円だった日米欧の中央銀行の資産が1,620兆円まで約3.5倍に拡大した。この量的緩和がリーマン・ショック後の株価を支えてきた。そして、金融緩和だ。長期国債の利回りは米国、欧州で4%近く、日本でも1.5%程度だったものがゼロ金利、マイナス金利に落ち込んだ。

 米国は短期金利を既に引き上げ始めていて、今年も9月と12月に2回、来年は3回の利上げが予想され、この結果、短期金利は3%〜3.25%になる。リスクフリーの金利が3%台という水準は相当高い。運用は債券を中心にということになりかねない。

 米国の金利引き上げは、世界の株式市場に影響があった。例えば、1994年から97年にかけての利上げの後は、アジア通貨危機があった。通貨危機があったので、金融緩和をしたのだが、98年からの利上げの後はネットバブルの崩壊があった。そして、2004年からの利上げの後では、リーマン・ショックがあった。金利の引き上げが最終局面を迎える時には、株価のバリュエーションも上がっている。株式より債券の魅力が高まっている。どこかで変転する。これからは、量的金融緩和の終焉というのが、大きなテーマだ。

様々に重なってくるリスクのマグマを見逃さない

 この量的緩和によって、米国株は3.6倍になった。日経平均も3倍だ。全世界の株価は2.8倍になったが、この値上がりは米国株がけん引している。そして、米国株のバリュエーションはもっとも高くなっている。バリュエーションが低いのは新興国だ。今、新興国に投資している人は、どれほどいるだろうか?

図表1:量的緩和・金融緩和に支えられた世界の株式市場
2007年1月31日〜2018年8月14日

図表1:量的緩和・金融緩和に支えられた世界の株式市場 2007年1月31日〜2018年8月14日
  • 出所:モーニングスター作成
  • ※ 上記データは2007年1月31日〜2018年7月は月末終値、2018年8月は8月14日終値

 住宅の価格も上昇した。リーマン・ショック後、株価に遅れて2012年に底を打って出直った。ただ、金利が上がると、リートを運用する会社は厳しくなるので、分配金の引下げなど、最近はリートに厳しい環境になってきている。

 そして、銅の価格は、建築、自動車など産業で幅広く活用され、景気の先行指標ともいわれるが、現在は、直近のピークから下がっている。急激に下がってきている。

 世界の消費の50%占める中国の景気も弱くなっている。中国は、米国の貿易戦争のなかで苦しんでいる。これまでは、中央銀行が金融引き締めに動いていたが、現在は逆に緩和に向いている。それだけ、中国経済は苦しいのだ。先日のテンセントの決算は過去で初めて四半期で赤字になった。アリババ子会社アントフィナンシャルの新規上場も延期されている。

 世界経済のGDPは右肩上がりで拡大している。日米欧の経済が成長鈍化しても新興国も含めると、世界のどこかに経済成長がある。成長する企業が産業も出てくる。

 米国が仕掛ける貿易戦争は、対中国では、500億ドルの関税引き上げに続いて、プラス2000億ドルの中国からの輸入品に関税をかけると言っている。中国は、500億ドルに加えて600億ドルの報復関税は発表しているが、米国から輸入している製品は、これ以上はなく、課税範囲を広げるという以外の対抗策を出さなければならなくなっている。かつてない規模の貿易戦争が起こっている。不透明な状況だ。

 米国の物価は上がっている。18年6月の米国消費者物価指数の上昇率は2.3%になった。輸入物価の上昇もある。コストアップで自動車など苦しくなっている。消費者も苦しい。4%の経済成長率でアメリカ景気は好調だが、それに見合う賃金上昇がなく、米国消費者は困ってきている。

 米国の金利は、イールドカーブがフラット化している。政策金利の引き上げによって、短期金利は上がっているが、それと同等には長期金利が上がっていない。つまり、米国は長期的には景気は良くないと見始めている。

 金融緩和によって、欧米のレバレッジドローン(M&Aや未公開株ファンドに投資する会社の負債)の残高が拡大し、直近ではリーマン・ショックの前の水準を超えてきている。企業側が負債を拡大し金利負担は増大している。一般に、企業は融資を受けると、一定水準まで融資の返済が済むまでは追加融資を行わないなどの条件付きの融資になるものだが、現在は特約条件が付かないローンが増えている。それだけ、金融機関は景気拡大を背景にリスクを取ってでも強気の融資を進めている。これが逆回転したのが、リーマン・ショックだ。それだけ、いろんなリスクのマグマが貯まっているといえる。

 リーマン・ショックの時、ブラックスワンという言われ方をされた。白いことが常識の白鳥の群れに、突然、黒い白鳥が現れたという想定外の驚きがあった。現在の状況は、グレイライノといわれている。灰色のサイといういみだ。サイは、灰色で当たり前なのだが、何かをきっかけに突然暴れ出すという。たくさんのリスクが目の前に当たり前にあるのだが、それを見過ごしていると、突然暴れ出すことがあるので注意が必要だということだ。

どうすればいい? タイミングを測らない時間分散の投資

 このような環境で、投資をどうすれば良いのか? 一つは、5年、10年という長期で株式への投資を考えること。また、ある程度の期間が定められた資金であれば、債券も含めたクッションをいれてバランスポートフォリオを組むこと。どちらかが大事だ。

 世界の株式の時価総額の世界経済が右肩上がりで拡大しているように、長期でみると右肩上がりに成長している。ITバブル崩壊による下落は4年ほどで回復した。リーマン・ショックによる下落は6年〜7年で回復している。5年〜10年という投資期間があれば、株式市場の大きなショックでも回復が期待できる。

図表2:世界の時価総額の推移

図表2:世界の時価総額の推移
  • 出所:世界銀行統計データよりモーニングスター作成
  • 期間:1980年〜2017年(各年末時点)

 この10年では大きな変革も起こっている。時価総額トップ10の企業を見ると、リーマン・ショック時の上位10社と現在のトップ10は大きく異なっている。1つの銘柄に投資することは難しい。投信は良い器になる。

 たとえば、10年前にも時価総額トップ10に中国企業がランクインしていたが、それは国有企業だった。現在は、アリババ、テンセント、バイドゥなどの民間企業だ。そして、10年前はマイクロソフト1社だけだったが、現在はアップルやアマゾンなど、多くがインターネット関連企業で占められている。

 世界の技術も大きく進歩した。10年前にiPhoneが登場した時に、現在のように皆がスマートフォンを使うような時代がやってくると、誰が予測できただろうか? SNSといわれるツイッター、フェイスブック、ラインなどのサービスも、ここ10年で大きく発展した。また、ウーバー、エアBアンドBなどシェアリングエコノミーが発展し始めたのも、この10年のことだ。09年にビットコインが登場し、IBMの人工知能ワトソン2011年、ソフトバンクのペッパー2014年などが登場した。これも、ここ10年のテクノロジーだ。

 今後10年を展望すると、AI、ブロックチェーン、IoT、フィンテック、量子コンピュータなど様々な新しいテクノロジーが発展するといわれている。

 投資信託の純資産総額のランキングも大きく変わった。10年前は、「グロソブ」「グロイン」の時代だった。ベスト10は、全て毎月分配型の投信で占められている。現在は、リートであり、ひふみプラス、ロボティクスファンドなどが上位にある。様変わりだ。本当は、変わることなく、持ち続けられるファンドがあった方が良い。

 過去20年間の日経平均株価を振り返ってみる。現在は2万2,200円だが、これからは、どのように動くだろう? 上がるだろうか? 下がるだろうか? もし、ここから一段と上がっていくと考える人は、今全力で株を買えばよいと思う。しかし、決めつけることは難しいと思う。タイミングは難しい。どの銘柄、どの投信を買うのかという以上に、いつ買って、いつ売るのかというタイミングを測ることは難しい。

 過去20年間、毎月1万円を日経平均株価に連動するファンドで積み立て投資を実施したとすると、累積の投資金額に対して時価の変動はそれほど大きくはないということが分かる。一括で240万円を投資した場合は、リーマン・ショックなどで大きく下がるが、積立投資では、この下がった段階でより多くの口数を買っているので、一括投資では30%マイナスくらいに戻った時に、積立投資では累積投資元本を上回っている。最終的に積立投資の方が良いパフォーマンスになっている。

 タイミングにとらわれない投資が積み立てによる時間分散の投資だ。

図表3:国内株式ファンドの過去20年のパフォーマンス

図表3:国内株式ファンドの過去20年のパフォーマンス
  • 出所:モーニングスター作成
  • ※ 2018年7月31日時点
  • ※ 国内株式ファンド:インデックスファンド225
  • ※ 積み立てシミュレーションは、前月最終営業日の基準価額で指定金額を購入したと仮定し算出。
  • ※ パフォーマンスは信託報酬控除後で、分配金を非課税で再投資したものとして計算。

投資の目標から必要な利回りを考え、投資対象を決める

 たとえば、今100万円があって、毎月5万円を30年間積み立てて、元本1900万円で5000万円を作りたい場合、年率5.5%で運用できればいい。世界株式の平均利回りは5%程度になる。今、いくらあって、何年間で、いくらにしたいかという考えのもとで、どのくらいの利回りが必要かを考えたい。利回り5%であれば、100%株式で運用する方法になる。

 現在1,500万円あって、10年間で2,000万円にしたいという場合は、年率3%の利回りでいい。このような場合は、50〜60%程度を債券で持つことで安定した運用ができる。債券の部分は、為替ヘッジ付の先進国債券でも良い。その場合、年利回り1.5%〜2%程度を確保できる。プラスαを株式で狙っていく。

 あるいは、3,000万円があって、毎月10万円ずつを取り崩して生活していくことを考える。年間120万円の取り崩しなので、ゼロ%の利回りなら25年で資金が枯渇する。運用利回りが2.5%で運用しながら取り崩した場合、40年間資金が残る。

 リーマン・ショックから10年を経過し、株式等のバリュエーションは高い位置にある。今までのやり方に対し、一部でも考え方を変えた投資を取り入れてはいかがだろう? 長期の時間を分けて投資する。債券などクッションを入れた投資をすることを考えていただきたい。

 投資を考えタイミングが難しいと思っている方は、自分自身の簿価にとらわれているからだ。1万円の時価が8000円まで下がって怖い思いをしたら、1万円に戻ってくると売ってしまう。1万円で買ったものが、1万3000円まで上がっても、利益を出したいと思ってします。自分が投資した簿価が基準になった判断だ。しかし、投資対象は、もっと上がるかもしれない。リーマン・ショックから10年を振り返って、今までの投資の仕方を続けても良いのか、考えるきっかけにしていただきたいと思う。

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