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市場関係者インタビュー

40億人市場に潜むビジネスチャンス 〜低所得者層が求める収入増のツール〜

2010/01/26

世界人口の7割を占めると言われるBOP(Base of the Pyramid、低所得者)層。今、日本企業の注目がこの層に向かっている。BOP層の年間所得はおよそ3000ドル以下と低いものの、約40億人の総人口を抱え、市場規模はおよそ4兆5600億ドルとされる(世界資源研究所調べ)。圧倒的なボリュームが見込まれることから、新たな市場として期待を込める向きも多い。
  BOP市場では、貧困が事業の様々な制約として立ちはだかる一方で、むしろそうしたハードルを克服することで生まれる可能性に注目する企業もあるという。
  日本総合研究所ヨーロッパの槌屋詩野研究員にBOPビジネスの現状について聞いた。

槌屋 詩野氏

日本総合研究所ヨーロッパ
槌屋 詩野氏

金融危機で注目高まる

――09年に入ってから、国内でBOPビジネスへの注目度が高まった。

「08年9月から09年3月までの半年間はリーマンショックを経て金融危機の影響を色濃く受けた時期だが、新興国市場に深く根ざして事業を展開していた企業の収益はさほど大きな打撃を受けなかった。たとえばホンダは09年3月期に黒字決算を出したが、その背景には新興国市場での二輪車販売が伸びたことなどがある。同様に新興国での売上が業績を牽引する企業の例が増えたことで『新興市場チーム』を新たに設ける企業が目立つようになり、BOPビジネスについての情報量も増えているというのが現状だ」

――BOPビジネスに参入しようとしている企業の共通点は。

「すでに新興国市場に参入している企業が多い。新興国でもTOP(高所得者)層向けにハイエンドモデルを提供してきた企業が、所得階層の下に位置するBOP層にアプローチするための取り組みを始めている。ただ、TOP市場とBOP市場では性質が大きく異なるため、まったく違う戦略が必要となる」

地域別BOP総所得(PPP:購買力平価建て)

地域別BOP総所得(PPP:購買力平価建て)
  BOP
人口
総人口に占める
BOPの割合
BOP所得(PPP) 総所得に占める
BOPの割合
アフリカ 4億
8600万人
95.1% 4290億 70.5%
アジア 28億
5800万人
83.4% 3兆4700億 41.7%
東欧 2億
5400万人
63.8% 4580億 36.0%
中南米
(カリブ諸島含む)
3億
6000万人
69.9% 5090億 28.2%

出所:世界資源研究所調査「The NextBillion:次なる40億人」
他資料より株式会社日本総合研究所作成


経済指標には表れない商習慣に通じる

――BOP市場で求められる取り組みとは。

「現地で必要とされている技術についての情報収集が欠かせない。先進国などのハイエンド市場では必要でも、現地では不要とされる技術がある。その一方、先進国では不要でも現地においてこそ求められる技術もある」
  「たとえば、自動車に対して物資を安全に確実に運ぶというニーズがある土地では、高品質デザイン・高機能車でなくとも現地ニーズを満たしたシンプルで頑丈な装備の車が低価格で購入できることが求められる。その一方で、アフリカでは365時間充電せずに利用できる携帯電話機が流通しているが、日本ではまだこうした技術は実用化されていない。容易に充電できる環境にないというアフリカ固有の事情があるためだが、こうしたBOP市場ならではの特殊なニーズや事情を把握している必要がある」

――現地ニーズを把握するうえで重要なポイントは。

「自社内で得られる情報やアイディアには限界があるため、これらを広く外に求める『オープン・イノベーション』の発想が大切。たとえば現地の技術者などの協力を得ることができれば、現地で必要な技術を踏まえた製品開発が可能となる。現地のニーズを汲んだ製品は必ず売れる。最近では、産学連携の動きも活発化してきた」

――同時に、自社の人材を現地に派遣し、情報収集に注力する取り組みも欠かせない。

「現地の人々がどのようにビジネスを行おうとしているのかをつぶさに観察し把握することが非常に重要だ。厳密にはまだ現地に市場と呼べるものが存在しないため、現地の人々をビジネスパートナーととらえ、一緒にビジネスを形づくっていくスタンスがBOP市場では求められる」

――現地の状況を観察することで見えてくるものとは。

「たとえば、現地のヒト、モノ、カネの動きを追うことで、BOP層の間では家畜や住宅なども『インフォーマル・アセット』として取引に用いる商習慣が根付いていることに気付くだろう。こうした取引はGDP(国内総生産)などの指標には反映されないが、現地では金銭にならないものも大きなビジネス基盤になっている。このような現状を踏まえれば、商品・サービスに関して企画の段階からバリューチェーンの各部分までが様変わりするはずだ」
  「バングラディシュにおけるマイクロファイナンス(低所得者向け小口金融)の展開で知られるグラミン銀行は事業やNGOとしての農村開発の活動を介して現地の習慣などに通じている。その傘下の通信事業会社グラミンフォンも情報を共有しており、それに沿ったビジネスを展開したことで、携帯電話事業での成功につながった」


副産物にメリットを見出せるか



――新興国の携帯電話市場では、世界最大手のノキアもシェアを伸ばしており、BOP市場での先行事例として注目される。

「ノキアはアフリカ地域のみをターゲットにした研究開発所をスペインに設立するなど、BOP層向け技術の開発に多額の投資をしてきた。グラミン等のNGOと研究開発で提携したことで、彼らが持っていた現地の習慣についての知見を共有できた点も大きいだろう。ノキアは現在、シーメンスとの合弁会社であるノキア・シーメンスにおいて携帯端末の販売やサービス・プロバイダ事業を展開している。同社はBOP市場向けに端末やサービスの徹底的な低コスト化と現地のニーズに合わせた開発を進め、その過程で多くのイノベーションが生まれた。たとえば、1台の端末に5人分のアドレスブックを登録できるようにすることで複数人での端末のシェアが可能になるなど、購買力の低いBOP層向けに様々な工夫がこらされている」

――BOPビジネスには多くの制約があると言われるが、企業の取り組みはどんな形で報われるのか。

「BOPビジネスに携わることで生まれる副産物に着目したい。たとえばノキアのケースのようにイノベーションを生み出すことで研究者が活性化されるというメリットがあるうえ、こうした新技術の中には先進国市場に『逆輸入』できるものも少なくない。また、ノキアの携帯端末が広く利用されることで現地にノキアブランドが築かれることも期待できる。開発をともにすることで現地での人材・ネットワークの確保も可能となろう。企業で意思決定権を持つ立場にある人間がBOPビジネスから生まれるこうした副産物の価値をどれだけ理解できるかにかかってくると言えそうだ」
  「一般に、BOPビジネスの事業投資は、回収に7年以上はかかるとみたほうがよく、事業単独での短期収益に期待するのは少し難しそうだ」

――BOPビジネスがもたらす副産物を重視する企業が特にこの市場に注力しているということか。

「BOPビジネスに注力するか否かは、企業の『選択』と『集中』に関わる問題だ。先行して参入しているノキアや仏食品大手のダノンなどはそこに可能性があるとみているから大きな投資をしている」

――BOPビジネスを「貧者に売りつける」と批判する向きもあると聞く。

「BOPビジネスとは、現地の人々の収入が向上することを志向するビジネスだということがしっかりと理解されれば、そうした誤解は解けるはずだ」
  「貧困層を助けるためなら、寄付や援助をすればよいという主張も聞くが、現地で実際に求められているのは、現地の人々が自立した形で収入を増やすためのツールであり、そこにビジネス機会を見出していくのがBOPビジネス。二輪車や携帯電話、太陽光発電型の小型照明といったBOP市場向けに展開されている商品は、貧困層がそれを購入することで、将来的に投資した以上の収入を得られると見込めるツールがほとんどだ」
  「BOP層の中からは意欲的で優秀な人材を見つけることも可能とされる。こうした人材による起業を支援したり、現地の人材の潜在能力を生かす形でビジネスの現地化を進めることでBOP市場にキャッシュが回る仕組みをつくれば、持続可能なビジネスが可能となる」
(聞き手:仲田 啓子)

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