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新興国情報

国際司法裁判所がプレアビヒア問題に判決 タイは新政権で対応か
2011/08/01

7月18日、カンボジアからの訴えを受けて審議を続けていた国際司法裁判所(オランダ・ハーグ、小和田恒所長)は、タイとカンボジアで武力衝突が起きているプレアビヒア寺院周辺に暫定非武装地帯を設定し、両国軍の同地帯からの即時撤退と武力行使の禁止を含む判決を言い渡しました。東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国インドネシアが派遣を表明したものの、タイ軍部の抵抗で実現していない停戦監視団の受け入れも命じました。判決では、1962年にプレアビヒア寺院をカンボジア領であるとした国際司法裁判所の判決も再確認し、カンボジア側からのプレアビヒア寺院へのアクセスをタイが妨害することも禁止しています。

カンボジアは今年4月、タイの武力侵攻に対し、国際司法裁判所に提訴し、1962年の判決での国境線に関する解釈の再確認と平和的解決を求めていました。タイは、本件は国際司法裁判所の管轄外であると主張していましたが、国際司法裁判所はタイの主張を却下し判決を下しました。しかし、カンボジアが求めていた国境線の確定については先送りしました。小和田恒所長は、今回の判決について、これ以上の被害と暴力を避けるための措置であると説明しています。

世界遺跡に指定されたプレアビヒア寺院(2008年1月筆者撮影)。タイ軍の攻撃で損傷していると伝えられています

今回の判決について、カンボジアのホーナムホン外相は「歓迎する。同判決を強力に支持する。判決はカンボジアが求めていたものを強力に支えてくれている」との政府声明を発表しました。これに対し、タイのアピシット首相は「判決は想定の範囲内」としているものの、7月19日に関係閣僚などを集め緊急会合を開いて対応策を検討しました。しかし、最終的に判断を先送りし、次期政権に本件を委ねる模様です。緊急会合には、外相、防衛大臣、軍総司令官、外務省事務次官、条約・法定問題局局長、国家安全保障委会議議長、内閣事務総長、行政裁判所所長などのメンバーが招集されたとみられます。他方、これまで、停戦監視団の受け入れを拒否してきたタイ陸軍の第2軍管区報道官は「撤兵よりは政府間交渉が先だ」と述べています。また、タイ自然資源環境省のスウィット大臣は、今回の判決に対して不安感を示し、タイにとって不利益になる可能性があるとの考えを伝えるなど、タイ政府内部の反応は分かれています。

この判決は、タイの武力侵攻を多国間協議と国際的圧力で平和裏に解決しようとしてきたカンボジア政府にとっては、6月のユネスコ世界遺産委員会での決定に続き、概ね思った通りの判決であり、今後の問題解決に大きく前進したと考えています。他方、タイのアピシット政権は、総選挙対策もあって、一部で「国際司法裁判所の判決に従うつもりはない」などの発言も伝えられるなど、この問題に対して強行姿勢を取ってきました。しかし、7月3日の総選挙でタクシン氏の妹のインラック氏に敗れたため、判断を先送りしています。今後、新首相となるインラック氏が、軍や反タクシン派の反発を抑えて柔軟路線に転換できるかどうかに注目が集まっています。

(鈴木 博)

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