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ポーランドのトゥスク政権、VAT増税と年金改革は大きな賭け=秋の総選挙控え
2011/02/09

ポーランドのドナルド・トゥスク政権は、財政再建を目指して今年1月1日からVAT(付加価値税)の税率を1%ポイント引き上げたのに続いて4月から年金制度改革を実行に移す方針だが、世論の批判が強く、これらの財政改革の結果次第では今秋の総選挙で厳しい状況に直面する可能性がある。

今回のVAT増税については最高税率が22%から23%に引き上げられ、欧州でもトップクラスに入る高い水準となる。この増税は同国の公的債務残高を対GDP(国内総生産)比55%以内に抑制することを目指して行われたもので、財務省ではVAT増税で50億−60億ズロチ(1420億−1700億円)の税収増が見込め、2011年末時点の公的債務残高は同54%をやや上回る見通しだとしている。

同国の法律で公的債務残高は対GDP比55%以内に抑えることが義務付けられており、もしも超えた場合には厳しい歳出削減に追い込まれる。このため、トゥスク政権としては是が非でもこうした事態は避ける必要がある。

VAT増税による国民の負担は今年は年間で1世帯当たり730ズロチ超となる見通し。また、増税によるインフレ率への影響もあり、消費者物価の上昇率(前年同月比)は2010年末の3.1%から2011年末に3.5%に上昇するとみられているが、政府は容認できる範囲とみている。

VAT増税で生活水準低下なら、総選挙で与党に大打撃

しかし、同国のシンクタンク、ソビエスキー総合研究所では同国の公的債務が目算通りに行かず、引き続き増大するようなことになれば、VATの最高税率は2012年7月には24%、さらにその1年後には25%にまで引き上げられる可能性があるとみている。

つまり、VAT増税をきっかけに国民の生活水準が低下した場合、トゥスク政権や与党の中道右派・市民プラットフォームに対する支持率は急速に低下し、総選挙で大打撃を受ける可能性があるのだ。

実際、EC(欧州委員会)のオッリ・レーン委員(経済・通貨担当)は、ポーランドのこれまでの財政赤字対策は年金制度改革を含めて不十分だとみており、最近、ポーランドの財務省に対し、同国の財政赤字を2012年末までに対GDP比3%以下のEU(欧州連合)基準までどのように引き下げるかについて十分な説明を示すよう求める書簡を送っている。

ポーランド財務省は2010年の財政赤字は対GDP比7.9%、2011年は同6.5%、公的債務残高も同54%超になると予想しているが、政府は4月からの年金制度改革の実施で2011年の財政赤字は対GDP比で0.8%、2012年には同1.7%も削減でき、VAT増税の措置と合わせると、2012年末までに3%に引き下げることは可能だとしている。

この年金改革は、サラリーマンの給与から徴収される年金保険料9.76%のうち、民間の年金保険料(ティア2)として天引きされている7.3%を2.3%に引き下げ、その代わりに差額の5%を国の年金基金(ティア1)の保険料2.46%に上乗せすることで国の財政支出を約3分の1削減するというものだ。

一段の財政改革なければ、格付け引き下げも

しかし、エコノミストや経済界、さらには与党支持者でさえ、トゥスク首相が財政改革は慎重に進めるとし、年金改革に続いて社会保障支出の削減や公務員削減といった第2弾の大規模改革はしないとしていることに不満を表明している。

同国最大の経済団体であるレビアタン(Lewiatan)のヘンリカ・ボフニャシュ会長は、リベラルな政権として期待していたが、先の選挙公約を守っていないと不満をあらわにしている。一方、元中銀総裁で著名なエコノミストであるレシェク・バルツェロビチ氏も政府は国民を軽視していると厳しく批判するありさまだ。

また、大手信用格付け会社フィッチ・レーティングスの欧州新興国市場部門の責任者であるエド・パーカー氏も1月27日、ワルシャワで開かれたセミナーで講演し、その中で「国家財政は持続安定的な状況ではない」としたうえで"よくないサプライズ"を避けるためには財政赤字体質からの脱却を目指していっそうの財政改革を実施しなければならないと述べ、同国のソブリン債の格付けを引き下げる可能性があることを示唆している。

これでは秋の総選挙後も現政権で全面的な行財政改革は進まないとして、トゥスク政権は選挙で生き残れるかどうかは厳しい状況になりつつあるといえる。

(増谷 栄一)

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