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新興国情報

ウクライナ、欧州向け天然ガス輸送が3分の1に急減か=新ルート開通で
2011/06/15

ロシアが中心となって建設を進めている、ロシア産天然ガスをバルト海経由で欧州に輸送するガスパイプライン網「ノルドストリーム」と黒海経由で欧州に輸送するガスパイプライン網「サウスストリーム」の両ルートが開通すれば、現在のウクライナ経由の欧州向け天然ガスの輸送量が3分の1に急減し、年間30億ドル(約2,400億円)の中継料収入もその大半が失われる可能性が出てきた。

これは、露国営天然ガス生産・供給大手ガスプロムとサウスストリームの建設母体サウスストリームAG(本社・スイス)が5月25日に、EU(欧州連合)向けに行った事業説明会で明らかにしたものだ。

もともと、ノルドストリーム(総延長1,220キロ、年間輸送能力550億立方メートル)とサウスストリーム(海底部分900キロ、年間輸送能力630億立方メートル)は、ロシアがウクライナとの過去の天然ガス供給をめぐる紛争を回避するため、ウクライナを迂回してロシア産天然ガスを欧州に輸送するために建設しているものだが、財政赤字の肥大化に苦しんでいるウクライナにとっては、ガス輸送の中継料収入の大幅減少は致命的となる恐れがある。

ウクライナの苦しい財政状況については、セルゲイ・ティギプコ副首相が6月4日に、国営放送インターTVとのインタビューで、同国が昨年7月にIMF(国際通貨基金)から承認されたデフォルト(債務不履行)に対し予防的な目的でも利用できる、151億5,000万ドル(約1兆2,200億円)のスタンバイローンが3月以降凍結されていることについて、IMFが同国への金融支援を打ち切れば、同国のソブリン債格付けが引き下げられ、この3年間で急増した対外債務の償還費用が膨らみ、ギリシャのような債務危機が起こる可能性があるとの認識を示しているほどだ。

また、露・ウクライナ両国の紛争は、最近では、2009年1月の厳寒期に、ウクライナがロシア産天然ガスの輸入代金15億ドル(約1,210億円)を滞納したため、全額が返済されるまでウクライナ向けの天然ガス供給を停止し、その影響で、同国経由の欧州向けロシア産天然ガスの供給も約3週間も停止を余儀なくされたことは記憶に新しいところ。これがきっかけで、ロシアはウクライナを迂回する新たなルートの建設に着手し、また、欧州も天然ガス供給のロシア依存からの脱却の動きが加速した。

具体的には、EU主導によるロシアを迂回してカスピ海沿岸の天然ガスを欧州に輸送するナブッコ・パイプライン(総延長3,300キロ、年間輸送能力310億立方メートル)の建設であり、ロシア主導のノルドストリームとサウスストリームの建設となっている。ナブッコは2013年から建設に着手し、2017年からの稼働を目指しているが、すでに2010年に建設に着手したノルドとサウスは、それぞれ、今年暮れと2015年から稼働を予定している。

ロシア、欧州に年間1,000億立方メートルの天然ガスを輸送

現在、ロシアは年間で欧州の天然ガス需要の25%に相当する約1,000億立方メートルを供給し、その80%がウクライナ経由、残り20%がベラルーシ経由で輸送されており、2010年はウクライナ経由で954億立方メートルの天然ガスが欧州に輸送されている。

しかし、イースト・ヨーロピアン・ガス・アナリシスのアナリストは、サウスストリームが稼働する2015年までには、ノルドストリームの稼働だけでウクライナ経由の天然ガス輸送量は500億-550億立方メートルに減少、さらに、2015年からサウスストリームが開通すれば、ゼロになると厳しい予想を示している。

ただ、サウスストリームAGは、サウスストリームが稼働した場合、ウクライナ経由のガス輸送を完全に肩代わりすることはないとしているが、サウスストリームの年間輸送量630億立方メートルのうち、3分の1の210億立方メートルはロシアが新規に供給する天然ガスが占め、残り3分の2の420億立方メートルはウクライナかベラルーシを経由する既存のパイプラインから振り替えられる可能性を示唆している。

一方、ガスプロムのアレクセイ・ミレルCEO(最高経営責任者)は5月25日に、ベルギーのブリュッセルで、ノルドストリームが稼働すれば、ウクライナ経由のガスパイプラインから200億立方メートルの天然ガスをノルドストリームに振り替えることを明らかにしているので、ウクライナは新ルートが開通すれば最大で620億立方メートルの輸送が失われる可能性があるといえる。

(増谷 栄一)

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