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新興国情報

ロシア中銀、モスクワ銀行に8,600億円の緊急融資へ=不良債権問題発覚で
2011/07/06

今年2月に、ロシア2位の国営金融大手VTB(対外貿易銀行)は同国5位のモスクワ銀行の過半数の株式の取得に成功したが、それも束の間、VTBは思いもよらぬ窮地に直面している。市場ではVTBの経営手法に対する危うさばかりか、銀行を監督すべき立場にあるロシア中央銀行の危機管理に対する信頼性を揺るがす事態となっている。

これは、VTBによるモスクワ銀行の過半数の株式取得のあと、中央銀行が行った金融検査でモスクワ銀行に巨額の不良債権があることが見つかった問題で、ロシアのアレクセイ・クドリン副首相兼財務相は1日に急きょ、モスクワ銀行の存続自体が危ぶまれる状態に至ったとして、中央銀行に対し、同行救済のための金融支援に乗り出すことを明らかにしている。

具体的には、預金者保護の観点からDIA(預金保険機構)を通じてモスクワ銀行に2,950億ルーブル(約8,560億円)の緊急融資(融資期間10年、金利は年0.51%)を実施するもので、財務相は、すでに中央銀行がDIAに必要な資金を融通する準備に入ったことを明らかにしている。

VTBは2月下旬にモスクワ市政府からモスクワ銀行の保有株式46.48%とストリチナヤ保険グループの株式25%プラス1株を1,030億ルーブル(約3,000億円)で取得したあと、中央銀行はモスクワ銀行の財務状況の検査を進めていたが、6月に入って、同行のアンドレ・ボロディン前CEO(最高経営責任者)と関係の深い企業に貸し付けられた2,500億ルーブル(約7,250億円)の融資が不良債権化していることが明らかになったものだ。

ボロディン前CEOはモスクワ銀行の株式20.3%を保有する大株主だったが、4月初めに、首都モスクワのユーリ・ルシコフ前市長夫人で世界的な大富豪の実業家でもあるエレナ・バツリナ氏に対する130億ルーブル(約380億円)の不正融資容疑で逮捕される直前に、病気治療の名目でロンドンに逃亡、現在もロンドンに滞在している。

今回、中銀の銀行検査で明らかになったモスクワ銀行の不良債権規模は、同行の資産全体の約3分の1を占めるが、ロシアのアレクセイ・クドリン副首相兼財務相はそのうちの大半の1,500億ルーブル(約4,350億円)の融資には全く担保が設定されていなかったとして、ボロディン氏に対し、同行の国内外の資産を流用した容疑で刑事事件として調査を開始する意向を明らかにしている。

モスクワ銀行はモスクワ市政府が設立した政府系銀行で、モスクワのルシコフ前市長が腐敗政治の批判を受けて、昨年9月にドミトリー・メドベージェフ大統領によって更迭されたことで、モスクワ銀行が管理するモスクワ市の資産が再配分されることになったため、VTBはモスクワ銀行の経営権の獲得に乗り出していた。

VTBも2,900億円を追加出資へ

一方、VTBは、今回のモスクワ銀行の不良債権問題の解決の責務は主にVTBにあるとしたうえで、モスクワ銀行の自己資本強化のため、1,000億ルーブル(約2,900億円)を新たに出資して、同行への出資比率を75%に引き上げる方針だ。モスクワ銀行の現在の自己資本額は180億ルーブル(約520億円)。

しかし、投資家は今回の不良債権問題によって、VTBは不良債権処理のため健全な資金まで投入させられる羽目に陥ったことへの危惧を深める一方で、モスクワ銀行の不良債権がこれほど悪化するまで見過ごしていた、ロシア中央銀行の銀行経営に対する監督能力の問題が露呈したことに危機感を強めており、新たな金融不安を引き起こす可能性がある。

また、VTBの主要株主となっている露携帯電話サービス大手MTS(モバイル・テレシステムズ)のミハイール・シャモリン社長もVTBはモスクワ銀行の買収の際、適切なデューデリジェンス(財務調査)を行っていたのか、と厳しく批判して、VTBの経営手法に疑問を抱かせてしまったことは、今後、VTBへの投資に警鐘を鳴らすことになりそうだ。

(増谷 栄一)

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