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新興国情報

欧州の脱原発機運、欧州向け「ナブッコ」ガス管網建設に追い風に(前編)
2011/07/20

3月に起きた東日本大震災の影響で東電・福島第1原発が深刻な放射能漏れ事故を引き起こしたのを受けて、ドイツやイタリアなど欧州各国で脱原発の動きが広がるなか、欧州のアナリストは環境に優しい天然ガス需要が今後、欧州で高まるとして、ロシアを迂回してアゼルバイジャンやトルクメニスタン、イラクといったカスピ海沿岸諸国の大規模ガス田から欧州のハブ拠点となるオーストリアまで天然ガスを輸送する、EU(欧州連合)主導の「ナブッコ・パイプライン」建設プロジェクトが本格的に動き出すとの見方を強めている。

欧州では、福島第1原発の原子炉がメルトダウンし、1986年のウクライナ・チェルノブイリ原発事故以来の大災害に発展したことを受けて、いち早く原発脱却に舵を切ったのはドイツとイタリアだった。ドイツは東日本大震災からわずか3日後の3月14日にそれぞれの原子力発電計画の一時凍結の方針を明らかにし、6月6日には2022年までの原発全廃を政府方針として閣議決定すると、これに続いて、イタリアでも6月12‐13日に国民投票が実施され、シルビオ・ベルルスコーニ首相が悲願としていた原発建設の再開を否決している。

EC(欧州委員会)のギュンター・エッティンガー委員(エネルギー担当)によると、ドイツの原発廃止で、ドイツ国内の電気供給量の23%が失われるが、これは欧州全体では6%相当が失われることを意味する。それだけに、原発に代わるエネルギー源として、天然ガスに対する需要が増加するとみられているわけだ。

オーストリアの石油化学大手OMVによると、ドイツが原発を全廃後の2025年までに欧州全体の天然ガスの輸入需要量は従来予想の年間1,500億立方メートルから1,800億立方メートルへと、20%も上方修正している。

しかし、新たに必要となる天然ガスの輸入はロシア国営天然ガス大手ガスプロムへの依存度、つまりは欧州のエネルギーのロシア依存が高まりかねないだけに、ロシア依存を回避しようとすれば、必然的に欧州主導のナブッコ・パイプラインの利用を促進することにならざるを得ない。

その動きとして、6月8日に、「ナブッコ・パイプライン」の建設主体であるナブッコ・ガスパイプライン・インターナショナルが、天然ガスの輸送を経由するトルコやハンガリー、ブルガリア、オーストリア、ルーマニアの5カ国の政府と同パイプラインの建設を支援することを約束する合意文書(PSA)に署名している。

PSA(プロジェクト・サポート・アグリーメントの略)は、同プロジェクトの着手に必要な法的枠組みを与えるもので、これによって関係各国政府は40地域にわたるパイプライン敷設用地の買収や建築資材の輸入など建設工事を進めることが可能になる。

同プロジェクトは2013年に着工し、2017年から年間310億立方メートルの天然ガスをトルコとイラクや旧ソ連のグルジア共和国との国境からオーストリア・ウイーン郊外にあるバウムガルテン(Baumgarten)のハブ拠点まで輸送する計画で、総延長は3,900キロ。総工費は79億ユーロ(約9,200億円)。もともと、着工時期は2011年からだったが、需要量が見込めず2年遅れとなっていた。

ナブッコプロジェクトは2020年時点で欧州全体の天然ガス消費量の5%以上をまかなう計画で、ロシアの送ガス管網プロジェクト「サウス・ストリーム」に対抗するものとして位置づけられ、欧州の天然ガス利用のロシア依存から脱却することが建設の目的となっている。

同プロジェクトのパートナー企業としては独エネルギー2位のRWEやトルコ国営石油・ガスパイプライン運用大手ボタシュ、オーストリアのOMV、ハンガリー最大の石油精製所ハンガリー石油ガス(Mol Nyrt)、ルーマニアのトランスガス、ブルガリア国営ガス会社ブルガーガス(Bulgargaz)がある。 (後編に続く)

(増谷 栄一)

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