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新興国情報

欧州の脱原発機運、欧州向け「ナブッコ」ガス管網建設に追い風に(後編)
2011/07/27

「ナブッコ・パイプライン」プロジェクトの成否は今後、十分な天然ガスの供給を確保できるかどうかだが、問題は天然ガス生産国のアゼルバイジャンとのガス輸送契約がどうなるかが依然、先行き不透明になっていることだ。

同プロジェクトでは、カスピ海南部にあるアゼルバイジャン最大のシャー・デニズ(Shah Deniz)天然ガス田から天然ガスを欧州に運ぶ計画となっているが、6月8日に行われた建設・運営主体のナブッコ・ガスパイプライン・インターナショナルと天然ガスの輸送を経由する5カ国政府の建設支援合意文書(PSA)の調印式には、肝心のアゼルバイジャン政府は欠席しており、今後、どの程度の天然ガスがシャー・デニズ・ガス田から運ばれるのか、また、アゼルバイジャンの国営エネルギー大手SOCARがパートナーとして参加するかどうかは依然不透明となっている。

この背景には、アゼルバイジャンの天然ガス輸送にはナブッコ以外にも多くの小規模なパイプラインがあり、ナブッコ以外にも選択肢があることがある。実際、アゼルバイジャンからの天然ガス輸送には、トルコ向けに送る南コーカス・ガスパイプラインやロシア向けのモズドク・パイプライン、イラン向けのアストラ・パイプラインなどがある。

シャー・デニズ・ガス田は2006年から英石油大手BPやノルウェー石油・ガス大手スタットオイル、SOCARなどによって開発が進められており、2017年からは第2次開発計画の「シャー・デニズII」がガス供給を開始する予定になっている。

シャー・デニズ・ガス田の埋蔵量は推定1兆2,000億トンで、現在、20以上の企業や企業連合がアゼルバイジャン政府との間で、シャー・デニズIIの天然ガス購入交渉を進めており、ナブッコ・ガスパイプライン・インターナショナルも今年末までにSOCARと最初の供給契約を結ぶことが可能だとみている。

しかし、アゼルバイジャンは基本的に輸出先を分散化する方針を長期にわたって取ってきており、すでに露国営天然ガス大手ガスプロムも昨年9月にSOCARとの間で、2011年から毎年、年間20億立方メートルの天然ガスを購入することで合意している。これは輸出の全量を1カ国に依存することを避ける狙いがあるからだ。

ナブッコの成否、トルクメニスタンからのガス供給もカギ

アナリストはSOCARがナブッコプロジェクトのパートナー企業にならない限り、成功する可能性はないとみている。仮に、参加したとしてもアゼルバイジャンのガスだけでは不十分のため、トルクメニスタンやイラク、あるいはイランからの供給が必要になるため、建設開始が数年遅れる可能性があるという指摘もある。

しかし、ナブッコ・ガスパイプライン・インターナショナルでは、トルクメニスタンが天然ガスの供給量が増える見通しが明らかになったことから十分な供給量の確保は可能だと楽観的にみている。

英国の監査会社ガフニー・クラインが2008年に発表したトルクメニスタンの南ヨロタン(South Yolotan)ガス田の埋蔵量は4兆−14兆立方メートルだったが、同国政府は埋蔵量の上限は21兆立方メートルになるとしている。これは世界全体の天然ガス埋蔵量の10%に相当し、カタールからイランまでの海底ガス田地帯の埋蔵量を凌駕してペルシャ湾の世界最大のサウスパルス(South Pars)ガス田に次いで世界2位となる。また、欧州全体の天然ガス需要の36年分に相当する巨大さだ。

今年末までEU(欧州連合)議長国となっているポーランドも、加盟27カ国の各エネルギー相によるナブッコ・パイプラインプロジェクトの年内承認を目指して、近くEUの行政執行機関であるEC(欧州委員会)に対し、9月から加盟各国と協議を進める権限を委任する予定だ。

さらに、ポーランドはEU議長国として、天然ガス生産国であるアゼルバイジャンやトルクメニスタンとナブッコ・パイプラインの建設で中心的な役割を果たすトルコとの協議が円滑に進むよう仲介役を果たす方針を明らかにしており、ナブッコ・パイプラインをEU主導のプロジェクトとして後押しすることも決まっている。

また、最近ではウズベキスタンや、新規の沖合ガス田を発見したイスラエルもナブッコへのガス供給に関心を示していることもナブッコ陣営にとっては明るい材料となっている。

(増谷 栄一)

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