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テーマで斬るアセアン株

2019年、明暗分かれた先進国株式とアセアン株式

 2019年のアセアン株式は伸び悩む展開だった。米中貿易問題に揺さぶられる展開が続いたものの、12月に入りようやく「第1段階」の合意で、米中協議の進展期待が強まった。この合意には様々な見方があるようだが、市場の共通した見方は、米中貿易問題は2020年に入っても継続するということだろう。

 株式市場では、19年最も堅調に推移したのは、その当事国である米国株、中国株、そして日本株だ。出遅れ感が指摘されていた日本株は夏場以降騰勢を強めた。

 一方、アセアン株は上値の重い展開が続いた。かろうじてプラスを維持した市場は多いものの(マレーシアはマイナス)、先進国株式市場に比べて見劣りした格好だ(図表1)。特に米国株式が史上最高値を更新し、世界中のマネーが集中する中、新興国からの資金流出がアセアン各国株式市場のパフォーマンスを抑制した側面がありそうだ。

図表1:明暗分かれた日米中とアセアン株

図表1:明暗分かれた日米中とアセアン株

※2018年12月28日を100として指数化
出所:モーニングスター作成

テーマで斬るアセアン株式

 2020年の米国株式市場は堅調に推移するとの見方が優勢だ。まずは、11月に控える米大統領選挙。焦点はズバリ、トランプ大統領が再選するかどうかだが、選挙に向けてトランプ大統領は、投資家を失望させるような政策は取りにくくなるだろう。また、FRB(米連邦準備制度理事会)は当面、金利を低水準で安定させる方針を示していることから、株式市場には資金が流入しやすい状態が続く。米国に資金が流入しやすい(その他の国からは資金が流出しやすい)中で、景気サイクルによる景気後退局面に差し掛かる懸念などを考慮すると、2020年のアセアン株は順風満帆とはいいがたい。アセアン株全体が買われるというよりは、テーマや材料を中心とした個別物色の色合いが強くなると予想する。

シンガポールに材料、5G拡大やデリバティブ取引ニーズ

 市場の注目はやはり、5G(次世代高速通信システム)だ。20年はいよいよ本格的な実用段階に入り、スマートフォンは対応機種への切り替えが進む見通し。シンガポールでは2020年初めに2社に対し5Gの通信免許が交付される予定。5G関連としては、同国で中心となるシンガポール・テレコムに注目したい。同社は、シンガポールを拠点として、アジアやアフリカでモバイル事業を展開している。フィリップ証券の営業本部リサーチ部長の笹木和弘氏は、「傘下のインド系通信大手バルティ・エアテルの特別損失で足元の業績は芳しくないので、株価が下落した場面はチャンスかもしれない」と話す。また、シンガポールの政府系ファンドであるテマセク・ホールディングスが主要株主となっている点もポイント。同ファンドは近年、事業再編などで企業価値を高めるため積極的に経営へ関与しており、例えば、シンガポールのコングロマリットであるケッペルコーポレーションの子会社化や、出資先どうしの提携などを進めている。

 シンガポールは経済の構造上、海外の要因、例えば米中貿易問題や香港デモなどの影響を受けやすい。一方で、デリバティブ取引が発達しており、リスクヘッジの意味合いで取引が活発化している。デモが活発化する香港を避け、富裕層のマネーが流入している側面もある。シンガポール取引所のデリバティブ事業の19年6月期通期売上高は前期比35%増で、特に中国株先物取引やFX、鉄鉱石先物取引が急増した。2020年も米中貿易問題や香港デモで先行き不透明感が強まれば、ヘッジ目的のデリバティブ取引のニーズが高まり、シンガポール取引所も注目される可能性が高い。

タイ、再生可能エネルギーへシフト

 タイでは、再生可能エネルギーへのシフトが加速している。主要な一次エネルギー(天然ガスなど)の枯渇懸念を背景に、タイ政府は、近年、エネルギー源の多様化を推進してきた。タイの発電所はその約6割が天然ガスに依存しているという。

 タイで注目されている再生可能エネルギーが太陽光。「2020年より住宅屋根用の太陽光パネル発電入札が開始される予定で、市場の注目度が高まっている」(笹木氏)。中心銘柄は、ラチャブリ・グループ。タイ国内ではIPP(独立系発電事業者)とSPP(小規模発電事業者)として熱発電設備からなる発電所を運営、「スマートホーム」、「エネルギーのインターネット」、「光ファイバーネットワーク・ソリューション」を通じて、IoT(モノのインターネット)のブロードバンド接続の足掛かりを掴む成長戦略を示す。同社はタイ国内だけでなく、オーストラリアでも太陽光、風力発電のプロジェクトが好調に推移している。

訪問観光客増のタイとマレーシア

 ここ数年、訪問客が急増しているのがタイとマレーシアだ。インバウンドが叫ばれる日本も訪問客は多いが、タイはそれを優に上回っている(図表2)。

図表2:アセアンの訪問観光客、タイやマレーシアが上位

図表2:アセアンの訪問観光客、タイやマレーシアが上位

※ 出所:世界銀行のデータを基にモーニングスター作成

 こうしたインバウンドの増加に恩恵を受けるのが、「医療ツーリズム」だ。タイやマレーシアは「医療ツーリズム」先進国。欧米への留学経験を持つ質の高い医師・看護師が多く、英語でのコミュニケーションが出来ることから、国内だけでなく、海外からの医療ツーリズム先として海外の需要を獲得している。予防医療とリゾートの組み合わせが主流で、中国や中東などの富裕層の利用も多いという。タイ最大の民間病院運営会社であるバンコク・ドゥシット・メディカル・サービシズや新興国を中心に9カ国で約50の病院を運営するマレーシアのIHHヘルスケアは中心銘柄といえる。

 また、訪問客の増加は、空港を運営するタイ航空公社や、消費関連銘柄にも好影響をもたらすだろう。

 2020年もアセアン株式市場は米中を中心とした海外イベントに翻弄される展開が続きそうだ。特に、米国株の好調がリスクオンとみなされ、単純な新興国株式への資金流入につながりにくくなっている点には注意したい。その中で、今回はほんの一部ではあるが、アセアン株で有望とみられるテーマ関連銘柄を紹介してみた。2020年はこうした個別要因からの市場活性化に期待したい。

(宮本 裕之)

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