ロシアのウクライナ侵攻によって世界の市場が大きく動揺している。日々の戦況の変化に一喜一憂するような相場が続いているさ中である3月12日、モーニングスターは「モーニングスターアワード ファンド オブ ザ イヤー2021受賞記念セミナー」をリアルとオンラインのハイブリッドで開催した。モーニングスター代表取締役社長の朝倉智也(写真)は、「『アクティブかパッシブ(インデックス)』は二者択一なのか?」というテーマで基調講演を行い、不透明な市場環境の中にあって投資で失敗しないための資産運用の考え方を説いた。「アメリカの経済学者のミシェル・ウッカー(Michele Wucker)氏が言った『グレイ・ライノ(灰色のサイ)』という、普段はおとなしく目立たないサイが、何かの出来事が起こると暴れ出すということが起こっているといえます。このようなときに、目先の変化に合わせて投資商品を変えようと考えてもうまくいきません。投資の原則に沿って、忍耐強く、じっくりと投資を続けることが大切です」と語った。講演の要旨は以下の通り。
インデックスファンドでの運用が凄まじく増えています。インデックスファンドとは市場平均に連動する運用をするファンドです。アクティブファンドには、いろんな運用がありますが、その分、パフォーマンスが異なってきます。
米国籍のアクティブファンドとインデックスファンドの純資産残高の推移
ETFを含めてインデックスファンドとアクティブファンドは同規模
アメリカでは、アクティブファンドの残高と、ETFを含めたインデックスファンドの残高が、ほぼ同規模になっています。残高は、アクティブとインデックスを合わせて31兆ドル(3,500兆円)を超えています。日本は130兆円ですから、日本の25倍くらいの規模になっています。アメリカの残高上位10銘柄のうち7本がインデックスファンドです。一番大きなバンガードのインデックスファンドは、1本で残高が100兆円を超えています。
日本は、ETFが58.8兆円の残高があります。ところが、その9割は日銀が買っています。したがって、個人のETF残高は6兆円程度です。インデックスファンドの残高が約18兆円ですので、全体に対するインデックス運用の残高比率は20%程度です。国内籍ファンドの純資産残高トップ10では、インデックスファンドは1本だけです。日本でも徐々にではありますが、大きな残高を占めるようになってきています。
日本の残高の大きなファンドの特徴は、アクティブファンドが多いということに加えて、対面の販社が主に取り扱っている商品が多いということです。ネットで購入されているファンドについては、SBI証券を例にとると、圧倒的にインデックスファンドの人気が高くなっています。つまり、若い方々が積立投資で買うという時には、インデックスファンドが主流を占めているということだと思います。
モーニングスター株式会社
代表取締役社長
朝倉 智也
インデックスファンドの優位性は、明らかにコストが低いことです。ノーロードで買える、申し込み手数料がゼロのファンドが多く、年間でかかる信託報酬が極めて低いものが多いです。そして、多くの銘柄に分散投資できるメリットがあります。日経225は225銘柄、TOPIXは市場全体の約2,000銘柄に投資ができます。そして、優秀なアクティブファンドを探す手間が省けるということもあります。
コストでは、国内株式アクティブファンドの平均が1.56%に対し、TOPIX連動型のインデックスファンドは0.48%です。同じような商品であれば、コストが低い方が良いということで、インデックスファンドの人気につながっています。
実際に、インデックスファンドがアクティブファンドにどの程度勝っているかということを調べると、米国籍ファンドでは、中小型株では3年、5年という期間ではアクティブファンドが勝っているというデータになります。一方、大型株などでは、インデックスファンドにアクティブファンドが敵いません。シンプルに大型株を中心に投資をしたいとお考えの方には、インデックスファンドに投資された方が良いのではないかと思います。一方、株式でも中小型株や新興国株、また、債券では社債やハイイールド債などの分野では、インデックスよりもアクティブの方が良い成績になるという傾向もあります。このように、特徴を捉えてインデックスとアクティブを使い分けることもできると思います。
米国籍アクティブファンドのインデックスに対する勝率
国内株式アクティブファンドの「TOPIX」に対する勝率を見ていくと、過去10年で6回はアクティブファンドの5割以上がTOPIXを上回る成績を残しています。ところが、アクティブの勝率が30%程度とか20%を下回る年もあります。それは、マーケット環境が悪い時に多いという傾向があります。
ファンドを選ぶ時に大事なのは、「長く付き合えるファンドを選ぶ」ということです。皆さん、短期で投資をするわけではないので、長く投資できるファンドを是非探していただきたいと思います。長く付き合えるかどうかは、投資される一人ひとりで違います。そのファンドの運用方針に共感できるのかが大切です。信じて託すことのできるファンドを選ぶことが大事です。
ファンドを選ぶポイントとして、運用実績やコストをいう人が多いのですが、長く付き合えるかどうかが、むしろ大事なポイントだと思います。長く付き合えるファンドを選ぶポイント1つ目は、「運用哲学」です。セミナーに参加したり、各運用会社のホームページなどをみていくと、それぞれがどういう考え方で運用しているのかが分かります。その会社やファンドマネージャーの言っていることが良く理解できる、共鳴できるということがファンドを選ぶうえで大事だと思います。
たとえば、運用コストで、なぜ、バンガードのファンドが圧倒的に低い運用コストを実現できているのでしょうか。それは、バンガードの株主が、バンガードのファンドを購入した投資家だからです。バンガードのファンドを買っていただく方と、バンガードの株主の利害が一致しています。
また、アメリカのファンドは、ファンドマネージャーが自分の運用するファンドに自分が投資している金額を情報開示する義務があります。自分の資金をファンドに投資することで、投資家と利害が一致します。たとえば、100万ドル以上自己資金を投資しているファンドマネージャーが運用しているファンドであれば、そのマネージャーを信用して同じ船に乗ろうという気持ちになれると思います。
運用成績とコストの関係を調べてみますと、国内株式アクティブファンドとモーニングスターレーティングとコストの関係では、レーティングが5ツ星で運用成績の良いファンドのコストが低かったという結果になりました。アクティブファンドでもコストの低いファンドを選ぶということも大事なポイントです。コストの違いは、長期の運用ではジワジワと効いてきます。
公的年金を運用している世界最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用をみると、インデックス運用が大半を占めています。GPIFのように200兆円という巨額な資産を運用しようとすると、インデックス運用になりがちです。アクティブ運用の場合は、その運用方針を維持するための適正な運用資産の規模がある場合があります。それでもGPIFはアクティブファンドも活用しています。インデックスとアクティブは併用しても良いと考えます。資産クラスで考えると、明らかにアクティブの方が優位な資産クラスもあります。
資産運用で大切なことは、まず、中長期の投資目的(目標)と時間軸を決めることです。目標の置き方によって、資産の配分が変わってきます。たとえば、5年間で年率2%の運用をしたい場合、株式への投資比率は少なくなります。まずは、何年投資するかという時間軸と、目標とする金額を決めましょう。その目標に応じて最適な資産配分比率を求めます。
その資産配分比率を決めた後で、最後に決めるのが、インデックスかアクティブかという選択になります。最後の選択は、皆さんが共鳴できるファンドを選べば良いと思います。資産配分が決まれば、中身は個別の株式でもファンドでもETFでも、アクティブでもパッシブでも良いと思います。目的に応じて世界の資産に分散する資産配分を決定することから始めるという基本原則を守って投資をすることが成功への道筋です。
資産運用の基本原則
最後に、ウォーレン・バフェット氏の言った言葉を紹介します。「投資は単純だが、それを実行することが難しい」というのです。投資の基本原則は、単純なことですが、それを実行し、忍耐強く続けることは難しいのです。どうしても、直近の出来事に左右されてしまいます。ロシアがウクライナに攻め込んで、インフレ率がものすごく高くなっているので、グロース株をやめてコモディティを買おう、金を買おうなどと目先で動いてもうまくはいきません。基本の資産配分を決めて、じっと我慢して運用し続けることが重要です。時間を分散して投資する積立投資を、自信をもって長期に実行してください。それが大事です。
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