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アナリストの視点(ファンド)

ゼロから分かる投資信託「米国REITの利回りが3%台の時に8%の分配金ってどうやって支払うの?」

2014-07-22

4つの分配金の原資のうち、3つは運用で得た成果だけど

 現在は約1,400本の毎月決算型投信がありますが、それらの投信が2014年6月中に支払った全ての分配金(1万口当たり)を合計すると約93,000円と、年率換算では8%を超える水準になっています。一方、直近の主要資産の利回りをみると、米国REIT(不動産投資信託)が3%台、ハイイールド債でも5%台となっており、8%以上が得られる流動性の高い金融商品が世界中に出回っているわけでもありません(図表1参照)。そうした中でも、毎月決算型が平均で年率8%の分配金は支払えるのは何故なのでしょうか。

図表1:主要資産の利回り比較(2014年6月末時点)

図表1:主要資産の利回り比較(2014年6月末時点)

※ 先進国債=シティ世界国債(除く日本)、米国債=米10年国債、米国REIT=FTSE NAREIT All Equity REITs、新興国債=JPM EMBIグローバルディバーシファイド、ハイイールド債=BofA USハイイールド・マスターII
出所:モーニングスター作成

 そもそも投信の分配金の原資は、(A)配当等収益、(B)有価証券売買等損益、(C)分配準備積立金、(D)収益調整金の4つの項目で構成されています。(A)は株式や債券などの配当収入、(B)は株式や債券などの売買損益のことで、(C)は投資家に支払わずに留保している(A)と(B)の合計額です。そして、(A)、(B)、(C)の3つの項目は投信が「運用で得た成果」であるという点で共通しています。

希薄化を防ぐためでも、支払うのはあくまでも基準価額の中から

 一方、(D)収益調整金は、投信が「運用で得た成果ではない」という点で他の3つの項目とは異なります。例えば、Xさんが1口1万円で投信を購入したとします。この投信が年率20%の利回り商品を保有していた場合、1年後の決算には12,000円になりますが、決算日直前に別のYさんが1口12,000円で購入した場合、追加設定後の基準価額はどうなるのでしょうか。単純に考えると、Xさん購入時の基準価額である10,000円に、(A)配当等収益の2,000円、Yさん購入時の基準価額の12,000円を足し合わせ、2口で割れば追加設定後の基準価額は12,000円となります。そして、分配金の原資は(A)2,000円だけなので、XさんとYさんに1,000円ずつ分配すればよさそうに思えます。しかし、これではYさんが購入したことで、Xさんが受け取れる分配金の額が薄まってしまいます。そこで、Yさんについては10,000円を元本とし、2,000円は(D)収益調整金として処理します。追加設定後の基準価額は12,000円で同じですが、内訳が元本の10,000円、(A)配当等収益の1,000円、(D)収益調整金の1,000円となります。(A)と(D)は分配可能原資なので、追加設定後も2,000円の分配の支払いが可能となり、XさんがYさんの追加購入によって分配金が減少するという事態を防ぐことができます。

 では、同じ12,000円でも、1,000円が配当、1,000円が値上がり益だった場合はどうでしょうか。Yさんの元本の10,000円は変わりませんが、(D)収益調整金の2,000円を(D−1)「配当等相当額」の1,000円と、(D−2)「売買損益相当額」の1,000円とに分けます。追加設定後の基準価額では(A)配当等収益、(B)有価証券売買損益、(D−1)収益調整金の配当等相当額、(D−2)同売買損益相当額がいずれも半分ずつ計上されますので、元本が10,000円で、(A)、(B)、(D−1)、(D−2)がいずれも500円となります(図表2参照)。その後、基準価額が8,000円に下落した場合、売買損益相当額である(B)と(D−2)からは分配できませんが、配当等相当額である(A)と(D−1)からは分配ができます。基準価額が8,000円になった後は、次の決算までに10%の配当を得たとしても(A)配当等収益は800円にしかなりませんが、(D−1)の500円の中から200円を充当することで1,000円の分配も可能です。ただし、その分だけ基準価額は下がります。

図表2:追加設定時の収益調整金等の計算例

図表2:追加設定時の収益調整金等の計算例

出所:モーニングスター作成

いつしか「分配金を受け取ること」が目的とならないように

 前回(毎月分配金を5年間もらい続けると、8割の投信が買った時の基準価額を下回ってるなんて…)の「さらに700円以上も基準価額が下がってしまった」理由は、この(D)収益調整金からの支払いが影響しています。また、毎月決算型を10年間保有すると、約9割の投信で購入時の基準価額を下回っている主な理由も、運用で得た成果ではない(D)を分配金の支払いにあて続けていることにあります。例えば、グローバルREIT投信で最も人気がある「ラサール・グローバルREITファンド(毎月分配型)」の直近(2014年1月期)の運用報告書をみると、毎月60円の分配金が安定的に支払われていますが、(A)配当等収益と(B)有価証券売買損益を合計した「当期の収益」は毎期0円〜18円で推移しており、不足分は(C)分配準備積立金と(D)収益調整金の合計である「当期の収益以外」で補っています。期末でも(C)と(D)の累積が6,600円以上あるので分配金を支払うことは可能ですが、そのうち9割以上が(D)で構成されています。程度の差はあるものの、収益調整金に依存する傾向は毎月決算型の純資産額上位の債券、REIT投信で概ね共通しています。

 このような毎月決算型に対しては、元本を取り崩してでも安定的に分配金を受け取りたい投資家のニーズに応えている、と説明されるときもあります。しかし、各自の購入時の基準価額によっては、分配金の全部、または一部が元本の取り崩しとなることが明確にイメージできている投資家の方が多ければ、分配金は「支払われた分だけ基準価額は下がる」と理解されている投資家の方が3割弱にとどまるでしょうか。投資家の立場としては、外国債券に直接投資した場合と投信を経由して投資した場合の違いを明確に意識しておく必要があります。例えば、1ドル=100円、米ドル建て債券の利回りが5%の時に100万円で投資をはじめたことを想定してみましょう。外国債券では、直接1万ドルを購入し、毎年5%、つまり5ドルのクーポンを受け取り、原則として満期時には1万ドルが戻ってきますので、受取時のそれぞれの為替の影響はあるものの「ドルベース」では一定です。一方、投信ではプロのファンドマネジャーが運用しますので、ドルベースで考えると、開始した時には同じ1万ドルであっても、運用が巧くいって1万2千ドルになることもあれば、8%のクーポンの支払いが可能になることもあります。しかし、残念ながら運用が巧くいかずに8,000ドルになることもありますし、円高局面や、ドルベースで3%のクーポンの債券しか手に入らなかった場合などでも、「円ベース」で5%の分配金の支払いを維持するために、実質的には当初の1万ドル、もしくは値下がり後の8,000ドルをさらに取り崩している場合もある、とイメージしておくべきでしょう。

 これらの点をふまえたうえでも、円ベースでの安定した毎月の分配金の受け取りに魅力を感じる方もいらっしゃるでしょう。その際には、人気の売れ筋商品だけに注目するのではなく、例えば、分配金や元本の「安定性」を重視するなら国内債券型、「持続性」を重視するなら(A)配当等収益、(B)有価収益売買損益、(C)分配準備積立金で分配金の大部分が賄われている投信なども選択肢に入れて、毎月の受け取りに不足した分だけを現金で充当するというのも一つの方法です。また、いずれの場合も、「分配を受け取ること」が目的化しないように注意してください。高水準、かつ、安定した分配金さえ受け取れれば、どれだけ元本を毀損しようが、高いリスクをとろうが構わない、という投資家の方は少数派だと思います。

(吉田 誠)

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