アナリストの視点(ファンド)
インデックスファンドシリーズ勢力図―熾烈なコスト競争、古参の逆襲開始?
2017-05-11
モーニングスターでは「主要インデックスファンドシリーズ、信託報酬・信託財産留保額の一覧」で主要なインデックスファンドシリーズのコスト水準の比較を資産別に行っている。そこで今回は同ページで取り上げるインデックスファンドシリーズについて近年の動向を紹介する。
残高は過去5年で9倍、本数は4倍だが…
まずインデックスファンドシリーズの純資産総額と本数の推移を見てみよう(図表1)。直近(2017年4月末時点)で純資産総額は8,000億円超、本数は150本超となっており、過去5年間で純資産総額は約9倍、本数は約4倍と大幅に増加している。ネットで投信を購入する投資家を中心にコスト意識が高まり、運用会社大手が相次ぎシリーズをスタートしたこともあり、市場規模は着実に拡大している。
図表1:インデックスファンドシリーズの純資産総額及び本数の推移

期間:2008年1月末〜2017年4月末
出所:モーニングスター作成
ただし国内公募追加型株式投信(確定拠出年金専用、ファンドラップ専用、ETF除く)の純資産残高は同月末時点で約50兆円あり、投信市場全体に比べるとインデックスファンドシリーズは非常に小規模と言わざるを得ない。ちなみに投信全体で純資産残高トップの「フィデリティ・USリートB(H無)」は約1.3兆円の純資産残高があることから、インデックスファンドシリーズ150本超を全て足し合わせてもかなわないのが現状だ。
過去5年間でコストは半分に
市場規模としてはまだ大きくはないが、その中では熾烈なコスト競争が繰り広げられている点は注目に値する。図表2は、インデックスファンドシリーズの中で主要指数別にコスト(信託報酬、税込)の最安値がどのくらいの水準であったかを年別に見たものだ。東証REIT指数とMSCIエマージング・マーケット指数に連動するファンドを除くと、全て過去5年で概ね半分、もしくはそれ以上にコストが低下している。
図表2:インデックスファンドシリーズの主要指数別コスト最安値推移

※ 各年の4月末時点を対象に集計
出所:モーニングスター作成
図表2の7資産について最安のインデックスファンドを見ると、以下の通り5資産でニッセイのインデックスファンドシリーズが入り、コスト優位性を示した。次にeMAXISが4ファンドで多いが、これは2017年2月に新規設定したeMAXIS Slimがコスト水準をさらに引き下げたことによる。
- ・NOMURA−BPI(総合):0.15%(iFree、eMAXIS)
- ・TOPIX:0.19%(eMAXIS、たわらノーロード、ニッセイ)
- ・日経225:0.19%(ニッセイ)
- ・東証REIT指数:0.27%(ニッセイ)
- ・シティ世界国債:0.18%(eMAXIS、ニッセイ)
- ・MSCIコクサイ:0.22%(eMAXIS、ニッセイ)
- ・MSCIエマージング:0.45%(i−mizuho)
市場シェアはeMAXISがSMT抜きトップ
また、インデックスファンドシリーズ別の純資産総額シェアを見ると(図表3)、5年前の2012年4月末時点では4シリーズしかなく、SMTが半分近くのシェアを占めていたのに対して、直近では10シリーズに増加し、eMAXISが30%超とSMTを抜きトップに踊り出た。また、確定拠出年金専用だったファンドを一般投資家向けにも開放した三井住友DCファンドが18%と第3位に入るなど、新規参入組のシェア奪取も目立つ。
図表3:インデックスファンドシリーズ別の純資産総額シェア

出所:モーニングスター作成
市場シェアとしては上位であるeMAXISやSMTだが、最近の資金流出入動向を見る限り、その地位は決して安泰とは言えない。インデックスファンドシリーズの過去1年間の純資金流入のトップ10と流出のトップ10をまとめたのが図表4、5だ。信託報酬の競合差は、同じカテゴリーに属するインデックスファンドシリーズの信託報酬の平均との差を示している。流入上位の方では、競合差がマイナス、つまり競合よりも低コストのファンドが10本中8本となっているのに対して、流出上位の方では10本中9本が競合差がプラス、つまり競合よりも高コストであることが分かる。投資家は敏感にシリーズ間でのコスト差を意識して、投資を行っている可能性が高い。
図表4:インデックスファンドシリーズ純資金流入額(過去1年間)トップ10
ファンド名 | カテゴリー | 設定日 | 信託報酬 (税込・%) |
信託報酬 (税込・%) 競合差 |
流入超過月数 (過去1年間) |
純資金流入額 (過去1年間合計・億円) |
---|---|---|---|---|---|---|
ニッセイ 外国株式インデックスファンド | 国際株式・グローバル・除く日本(F) | 2013年12月10日 | 0.22 | -0.24 | 12 | 165 |
三井住友・日本債券インデックス・ファンド | 国内債券・中長期債 | 2002年1月4日 | 0.17 | -0.11 | 12 | 76 |
たわらノーロード先進国株式 | 国際株式・グローバル・除く日本(F) | 2015年12月18日 | 0.24 | -0.21 | 12 | 47 |
ニッセイ TOPIXインデックスF | 国内大型ブレンド | 2015年4月27日 | 0.19 | -0.15 | 12 | 33 |
三井住友・DC外国債券インデックス | 国際債券・グローバル・除く日本(F) | 2002年4月1日 | 0.23 | -0.17 | 11 | 29 |
三井住友・DC年金バランス50(標準型) | バランス | 2005年9月30日 | 0.25 | -0.21 | 12 | 28 |
iFree8資産バランス | バランス | 2016年9月8日 | 0.25 | -0.21 | 8 | 27 |
eMAXIS バランス(8資産均等型) | バランス | 2011年10月31日 | 0.54 | 0.08 | 11 | 22 |
eMAXIS プラスコモディティインデックス | コモディティ | 2015年6月18日 | 0.88 | -0.03 | 9 | 22 |
SMT J-REITインデックス・オープン | 国内REIT | 2008年1月9日 | 0.43 | 0.07 | 10 | 21 |
図表5:インデックスファンドシリーズ純資金流出額(過去1年間)トップ10
ファンド名 | カテゴリー | 設定日 | 信託報酬 (税込・%) |
信託報酬 (税込・%) 競合差 |
流入超過月数 (過去1年間) |
純資金流出額 (過去1年間合計・億円) |
---|---|---|---|---|---|---|
eMAXIS 日経225インデックス | 国内大型グロース | 2009年10月28日 | 0.43 | 0.13 | 5 | -81 |
eMAXIS TOPIXインデックス | 国内大型ブレンド | 2009年10月28日 | 0.43 | 0.08 | 2 | -73 |
野村 インデックスF・日経225 | 国内大型グロース | 2010年11月26日 | 0.43 | 0.13 | 8 | -53 |
eMAXIS 先進国株式インデックス | 国際株式・グローバル・除く日本(F) | 2009年10月28日 | 0.65 | 0.20 | 4 | -30 |
eMAXIS JPX日経400インデックス | 国内大型ブレンド | 2014年4月1日 | 0.43 | 0.08 | 3 | -29 |
SMT グローバル株式インデックス | 国際株式・グローバル・除く日本(F) | 2008年1月9日 | 0.54 | 0.09 | 7 | -17 |
i-mizuho国内株式インデックス | 国内大型グロース | 2013年9月3日 | 0.24 | -0.07 | 5 | -12 |
外国株式インデックスe | 国際株式・グローバル・除く日本(F) | 2010年4月6日 | 0.54 | 0.09 | 4 | -11 |
eMAXIS 国内リートインデックス | 国内REIT | 2009年10月28日 | 0.43 | 0.07 | 6 | -11 |
eMAXIS 先進国リートインデックス | 国際REIT・グローバル・除く日本(F) | 2009年10月28日 | 0.65 | 0.14 | 3 | -9 |
※ (F)は為替ヘッジなし
※ 2017年4月末時点
出所:モーニングスター作成
また、流入上位は過去5年以内に設定されたファンドが10本中5本となっているほか、三井住友DCファンド3本も一般投資家向けに開放されたのが過去5年以内だった点を考慮すると、実質的には8本が近年投資可能になったファンドである。一方、流出上位は過去5年以内に設定されたファンドは2本のみとなっており、設定が古いファンドが苦戦している状況だ。前述のeMAXIS Slimの投入はこうした危機感が背景にあったと考えられる。今後、古参組の逆襲が本格化するか注目だ。
(注)記事内で記載の信託報酬は目論見書に記載の信託報酬と、投資先ファンドがある場合はその信託報酬も含む。監査費用は含まない。
(坂本 浩明)