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ファンドニュース

【GW特集】75歳まで働きますか? 年金制度の柔軟化で老後資産形成の選択肢も広がる

2020/05/01 17:00

 6月17日までの会期で開催されている第201回国会で年金改革法案の審議が始まった。昨年は国会で「年金2000万円(不足)問題」が取り上げられ、6月3日に金融庁が取りまとめた「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書」を麻生太郎財務大臣が受け取らないというすったもんだが起こった。今年の国会に提出された年金改革法案は、年金の加入可能年齢の引き上げや、年金受給の柔軟化という大きな変化を含んでいる。新型コロナウイルス感染症に耳目が集中しているが、老後の資産形成を考えるにあたっては、重要な変化になるので、しっかりと内容をチェックし、今後の変更に備えたい。

◆人生100年時代に対応した新しい年金制度

 今国会に提出された年金改革法案は、「人生100年時代」で高齢無職世帯が拡大し、非正規雇用や短時間労働者が拡大している現実を踏まえ、その生活基盤として公的年金制度(特に厚生年金)の適用範囲を拡大すること。そして、働き方の多様化に対応して年金受給の柔軟化がテーマになっている。

 短時間労働者を厚生年金保険の適用対象とすべき事業所の企業規模を現行の500人超から、100人超、50人超へと段階的に引き下げる。そして、受給開始時期の選択期間を現在60歳〜70歳の間となっているのを60歳〜75歳の間に拡大する。さらに、確定拠出年金の加入可能年齢を企業型では65歳未満を70歳未満に引き上げ、個人型(iDeCo)は60歳未満から65歳未満に引き上げるというものだ。

 この中で、老後に向けた資産形成をしている人(計画している人)にとって、特に影響が大きいと考えられるのが、「年金の受給開始時期の選択期間の拡大」だ。年金の受給開始時期を最大で75歳まで先送りできることになる。この「年金受給の繰り下げ」については、65歳を起点として1カ月繰り下げるごとに65歳時点で受け取れるはずだった年金額が0.7%上乗せされる。つまり、75歳まで年金の受取時期を繰り下げると、受給できる年金の額が120カ月×0.7%で84%上乗せされることになるのだ。現在は70歳までの繰り下げのため、最大でも年金額の増額は60カ月×0.7%で42%まで可能だ。

 昨年、大騒動になった「年金2000万円問題」は、「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、今後30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で2000万円になる」ということだった。この不足額は、家計調査で高齢無職世帯の収入(主に公的年金)が約22万円で、支出が約27万円であり、この差額の5万円を指している。

 さて、無職世帯の月収22万円を年金に置き換えて考えてみる。基礎年金(国民年金)として年金保険料を納めてきた人が全員もらえる老齢基礎年金は満額で約78万円。月額は6.5万円だ。夫婦ともに老齢基礎年金をもらっているとすると毎月13万円。これに夫婦の老齢厚生年金が9万円という計算になる。

 仮に、夫婦で老齢基礎年金を5年間繰り下げて受取額を42%増額すると、毎月の年金額が5.46万円増額される。「年金2000万円問題」が解消されることになる。繰り下げは、老齢基礎年金、厚生基礎年金、それぞれ単独で可能だ。両方一緒に繰り下げることもできる。

◆公的年金は一生涯、繰り下げ需給の増額を活用

 もし、夫婦で老齢基礎年金の繰り下げを実施する場合、65歳から70歳までの5年間は老齢厚生年金の9万円を受け取るだけなので、毎月の支出約27万円との差額18万円を何とかする必要がある。5年間の合計は1080万円だ。この金額を65歳までに貯蓄して持っていることが一つの解決策。1080万円であれば企業年金や退職金で用意できる人もいるだろう。あるいは、月収18万円が得られる仕事を70歳まで続けるという選択肢もある。

 いずれにしても、65歳で年金暮らしに転じて、毎月の不足額を生涯負担し続けるよりも、70歳までの工夫と割り切って、70歳以降は公的年金だけでなんとか生活ができるように考えた方が、負担感は少ない。人間は死ぬ時期を選べないが、公的年金は生きている間はずっと支給されるので、公的年金だけで暮らせるのであれば、長生きすればするほど得をする。

 さて、今回の改正で、75歳まで年金の受給開始を繰り下げることができる。夫婦で一切の年金をもらわずに10年間を暮らすことができれば、約22万円である年金受給額は75歳の段階で毎月約40万円になる計算だ。毎月40万円の収入があれば、75歳以降の生活費に困るようなことはなくなるだろう。10年間くらいは子どもと一緒に暮らして年金を受け取る必要がないという人もいるだろう。あるいは、10年間の生活費をまるまる貯蓄の取り崩しで賄うのであれば、3240万円を用意する必要がある。

 これらの計算は、あくまでも65歳時点での世帯で受け取れる年金額が22万円、毎月の支出が27万円という前提で計算している。年金をもらえる金額は、人それぞれに異なり、生活費の水準も生活スタイル、住まいの場所、住宅が賃貸か持ち家かでも変わってくる。ただ、年金の繰り下げ受給によって年金額が増額できることを考え併せれば、老後の生活プランにさまざまな選択肢があることがわかるだろう。

 したがって、「老後の生活費として65歳までに2000万円をつくる必要がある」などと、老後の資産形成の目標を決めつける必要はない。退職年齢に達するまでに、お金は多く残しておくに越したことはないが、それが人生の目的になるような過剰な蓄財は必要ないのではないだろうか。65歳が見えてくる55歳くらいの段階で、自身の健康状態や、働くスキル(会社を離れても勤労収入が得られるだろうか?)、そして、その時の金融資産額等を総合的に考えて、老後の生活設計を確認するようにしたい。

 私たちは、この3月に世界の株価が1カ月足らずで30%ほども下落することを経験したばかりだ。2000万円を投資していたら、600万円が吹き飛んだ計算になる。退職を目の前にして、これほどの暴落を経験すると老後の生活設計がズタズタになってしまう。しかし、年金の繰り下げ受給を利用すれば、この厳しい現実を前にしても実現可能なプランが考えられる。政府は企業に70歳までの就労機会を確保するように求め始めた。社会は、細く長く働く環境づくりに動いている。65歳を過ぎても元気で働けるのであれば、就労を続けて年金暮らしを先送りすることができる。

 公的年金は60歳から前倒しで受け取ることもできる。その際には65歳を起点として1カ月ごとに0.5%減額される。つみたてNISAやiDeCoなどを活用し、60歳までに十分な蓄財が進んで生活費に困らないという見通しがあれば、早期リタイヤもできる。新しい年金制度は、このような多様な生活に合わせて柔軟な生活設計ができるような仕組みをめざしている。この改正を機に、将来の働き方も含めた老後の生活プランを改めて考えておきたい。(図版は、年金制度改革のポイントのひとつである公的・私的年金の加入と受給時期の変更)