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ファンドニュース



戦後最悪の失業率で上昇した米国株価、市場のダイナミズム復調か

2020/05/12 19:05

 5月8日に発表された米国4月の雇用統計の結果は、今回の「コロナショック」の経済に与える影響を象徴的に示している。非農業部門の雇用者数(前月比)はマイナス2020万人とかつて見たこともないような数値となり、失業率は14.7%と戦後最悪の数値になった。ところが、この数値が発表された当日の米国株価は堅調で、NYダウは1.91%高(455.43ドル高)の2万4331ドルになった。この市場の反応は、今後の見通しを考える上で大きなヒントになったようで、運用会社各社は週明け11日にマーケットレポートを発表した。

 最重要経済指標の1つである失業率が戦後最悪の結果になったにも関わらず、株価がそれを無視するように値上がりした背景には、事前の市場予想が結果よりも一段と悪い数値であった(非農業部門雇用者数はマイナス2200万人、失業率は16%)ため、「想定の範囲内」と受け止められた部分がある。この点について、日興アセットマネジメントのチーフ・ストラテジストである神山直樹氏は、「3月に2万ドル割れの後NYダウが回復する中、市場コンセンサスが想定してきたシナリオ(5月初旬までに最悪期を迎えて正常化を模索する)がそのまま進んでいる。そう考えると、今後の株価想定では、経済正常化を確認するほど上昇する可能性が高い」と解説している。現在の失業率や感染者数ではなく、「これからの感染者数、行動制限、企業利益や雇用の回復を考える必要がある」と指摘する。

 また、雇用統計の中身を確認した上で、「多くの失業者は一時解雇(レイオフ)であるため、経済活動の再開とともに再雇用されると期待される」(三井住友トラスト・アセットマネジメント)とする。5月になって進み始めた行動制限の緩和が、今後順調に進むものであれば、「米国株式市場は、米国で段階的ながら経済活動が再開していることに加え、米国の財政政策、金融緩和などが下支えすると考えられる」(同)と市場の反応をポジティブに捉えている。

 実際に、5月11日以降に米国アップルが店舗営業を再開し、上海ディズニーランドやパリの小売店やカフェなど閉鎖されていた施設の再開も始まった。英国の一部でもロックダウンが緩和されている。この経済再開の動きが株価を下支えしている。もっとも、これら自粛緩和の動きが、第2次感染拡大などの呼び水につながるという懸念は消えない。日興アセットの神山氏は、「もう一度株価が下がるシナリオは、感染者数増加の第二波で、ふたたび大幅な行動制限となる場合だ。これは倒産の増大、金融危機を想起させるので、1万8500ドルを割り込んでさらに低下する恐れもある」と釘を刺す。ただ、神山氏は再び大幅な行動制限になる可能性は低いとみて「仮に感染者が多少増えても、気を付けながらも経済再開を止めない」と予測している。

 一方、雇用統計の結果を、今年11月に実施される米大統領選に絡めて考察するレポートもある。三井住友DSアセットマネジメントは、「失業率や労働参加率の変化をみると、黒人、ヒスパニック、女性、若年層に集中している。これらの人たちの苦境が長引く場合、11月の大統領選挙では、バイデン民主党に追い風が吹くことになる可能性がある」と分析。野村アセットマネジメントも「過去、再選に失敗した大統領は失業の増大が主な敗因とされるケースが多い」と指摘している。

 さらに、野村アセットでは、雇用統計で娯楽・接客、教育・ヘルスケア、小売などの業種で就業者数の減少が大きくなっている点に注目するように促し、「こうした業種での雇用の大幅な減少は、低所得家計の所得減少を招き、所得格差を拡大させ、社会の分断化を深める懸念がある」と注意喚起している。

 5月8日の雇用統計発表当日には、「中国の劉鶴副首相とライトハイザー米通商代表、ムニューシン米財務長官が電話会談で、米中貿易協議の第1段階合意の実施に向けて、良好な環境を構築することで合意した」という米中関係悪化への懸念を緩和させるニュースがあったことも株高の一因になった。しかし、米トランプ大統領は、今回の新型コロナウイルス蔓延に対する「中国責任論」をたびたび持ち出しており、貿易摩擦に加えて「新型コロナウイルスの責任」も米中間の対立要素に位置づけられそうだ。今後の雇用統計の数値にはかばかしい改善が見られないような場面では、選挙対策としての「中国たたき」が激化する懸念もある。

 コロナショックで3月に大きく下げた株価は、4月いっぱいを「ロックダウン」による行動制限を実施した効果などもあって、この5月にはようやく感染拡大の勢い鈍化を実感させる動きになってきた。世界の株価は、いち早く戻り始めた米国や中国に対し、ユーロ圏や南米、アフリカが出遅れるなど、地域差はあるものの、いずれも3月の安値からは下値を切り上げている。

 今後は、市場に対して好悪の様々な材料が出て、それに対して市場が反応するという動きに転じそうだ。誰もが身を縮めて事態を見守るだけだったような、3月とは異なる動きだ。今後、各国の感染対策の良し悪し、あるいは、個別企業の業容などによる業績の好悪などが価格に現れる「当たり前の相場」が戻ってくるのだろう。米国4月の雇用統計に対する市場の反応から、そのような変化が感じられた。(図表は、米国雇用統計の推移、2016年1月〜2020年4月)